九州・霧島山の麓、宮崎県南西部に位置するえびの市。2021年7月時点の人口は約1万7000人。少子高齢化で人口の減少が進む過疎の町だ。
同市には携帯ショップが1店舗もない。以前はNTTドコモとKDDI(au)、ソフトバンクの携帯ショップがあったが、人口減少に伴って17年までに撤退したからだ。「市民が携帯端末の機種変更や修理をしたい場合、往復1時間以上かけて、隣接する宮崎県小林市や熊本県人吉市に出向いていた」(えびの市企画課)。
携帯電話は今や市民生活に必須の社会インフラだ。そこで、えびの市は20年から市役所庁舎に携帯電話の操作に関する相談窓口を設置して対応を進めてきた。しかし、「機種変更や契約変更といった問い合わせには応えられず困っていた」(えびの市企画課)。
そんな状況を改善しようとNTTドコモとKDDI、ソフトバンクの携帯大手3社が異例のタッグを組んだ。3社はえびの市と連携し、21年8月からJR吉都線えびの駅に臨時ショップを開設する。1社ごとに月当たり平日の連続2日、3社が入れ替わりでスタッフを置く。携帯大手3社が自治体と連携し、臨時ショップを設けるのは全国初という。地域のICT拠点や高齢者の駆け込み寺としての役割を期待される携帯ショップの今後のモデルケースになるか。
木造無人駅に近隣店舗からスタッフを派遣
えびの市によると、今回の臨時ショップ実現に向けては、ソフトバンクが果たした役割が大きかったという。えびの市とソフトバンクは20年、ICTを活用した地域活性化や市民サービス向上で連携協定を結んだ。ソフトバンクの特命アドバイザーがえびの市のさまざまな課題をヒアリングする中、同市に携帯ショップが1店舗もないという課題が浮上。「誰一人取り残さない」というSDGsの理念に基づいてソフトバンクがNTTドコモやKDDIに呼びかけ、臨時ショップの共同開設につなげた。
臨時ショップを開設するJR吉都線えびの駅は、築100年を超える木造建築の無人駅だ。JR九州が13年に同駅の建物部分をえびの市に譲渡し、現在は同市が管理している。臨時ショップ開設に当たり、えびの市が無償で携帯大手3社に場所を提供する。
臨時ショップのスタッフは、えびの市近隣の携帯ショップから派遣するという。ショップ運営の重荷となる店舗費用を負担することなく、ショップ業務を進められる仕組みだ。もっとも今回の取り組みでは、えびの市から携帯ショップに対して補助金は出ない。
携帯ショップを高齢者の駆け込み寺に、進む模索
「地域のICT拠点や高齢者の駆け込み寺に。そして誰一人取り残さない、人に優しいデジタル化こそ我々が考える携帯ショップのありたい姿」――。ここに来て全国の携帯ショップが加盟する業界団体「全国携帯電話販売代理店協会(全携協)」も総務省の有識者会議において、このような携帯ショップの未来像を掲げている。
全国に約8000店舗あり、スマートフォンの使い方などの説明スキルにたけたスタッフを抱える携帯ショップは、社会全体のデジタル化を底上げできる大きなポテンシャルを持つ。
実際、全国の携帯ショップで、スマホの使い方を説明する「スマホ教室」が頻繁に開催されている。最近では、新型コロナウイルスのワクチン接種のネット予約を携帯ショップで手助けする取り組みも進む。
問題はこのような価値を、携帯ショップの持続可能なビジネスモデルとしていかに成立させていくのかだ。