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 「日本の品質」が揺らいでいる。製品不具合が頻発。品質偽装も繰り返され、日本の製造業に対する信頼が失われている。日経ものづくりが実施した独自アンケート調査の結果からは、海外製品との激しい競争や急変する市場の中で、適正な品質を見失っている日本の製造業界のいびつさが浮かび上がる。失われた信頼を取り戻し、高い競争力を再び手にするために日本の製造業は「品質」にどう向き合うべきか。今後、日本の製造業が確保すべき「品質」を再定義する。

止まらない品質問題

 日本企業や製品の信頼を脅かす「品質問題」の連鎖に歯止めがかからない。ここ5年を振り返ると、深刻なものだけで40あまりの品質問題が発生している()。

表 近年発生した品質トラブル

2016年4月三菱自動車軽自動車の燃費試験不正を公表
5月スズキ燃費試験不正を公表
6月神鋼鋼線ステンレスばね用ステンレス鋼線の強度試験データで改ざんが発覚
2017年2月三菱電線工業シール材の寸法と材料物性の測定値で改ざんが発覚
6月 タカタ欠陥エアバッグの異常破裂問題で経営破綻
8〜10月神戸製鋼所アルミ・銅、鉄鋼製品などで検査データの改ざんが発覚
9月日産自動車完成検査の不正(無資格検査員)が発覚
10月SUBARU完成検査の不正(無資格検査員)が発覚
10月三菱伸銅黄銅条や銅条製品の検査データを改ざん
11月東レハイブリッドコード自動車用補強材の検査データの改ざんを公表
11月シチズン電子LED部品などで製造拠点の偽装が発覚
12月SUBARU燃費・排出ガス検査不正が発覚
2018年1月トーカンゴム製品で品質データ偽装が発覚
2月丸善石油化学樹脂などの品質データねつ造と試験不正を公表
2月三菱アルミニウム、
立花金属工業、ダイヤメット
品質データ偽装を公表
2月宇部興産低密度ポリエチレン製品で品質データのねつ造を公表
6月三菱マテリアル銅スラグ骨材工場がJIS認証の取り消し処分
7月日産自動車燃費・排出ガス検査不正を公表
8月スズキ、マツダ、
ヤマハ発動機
燃費・排出ガス検査不正を公表
9月日産自動車精密車両測定の検査不正を公表
9月SUBARUブレーキや舵角などの検査不正を報告
10月日立化成エポキシ樹脂封止材で検査不正を公表
10月KYB免震/制振ダンパーで検査データの改ざんを公表
2019年1月IHI無資格者による検査(無資格検査)が発覚
3月ジャムコ航空機の内装品で無資格検査と業務規定違反が発覚
4月スズキ燃費・排出ガス検査不正以外の検査項目の不正を報告
8月菱三工業産業機器用鋳鉄製品で品質データ偽装を報告
2020年1月デンソー燃料ポンプの品質不具合で米国でリコールを届け出
2月三菱電機高耐圧パワー半導体モジュールで検査不正を公表
3月デンソー燃料ポンプの品質不具合で世界でのリコールに発展
4月日立金属特殊鋼・磁性材製品で検査データの改ざんを公表
9月JSSJシートベルトのベルト部分で強度データの改ざんが発覚
10月三菱電機車載ラジオで欧州無線機器指令の不適合品の出荷が発覚
10月東洋紡ポリブチレンテレフタレートのUL認証の取り消し
2021年1月京セラ有機材料および機能性材料でUL規格不正を公表
2月東洋紡新たに3種類の樹脂でUL規格認証の取り消し
2月曙ブレーキ自動車用ブレーキで品質データの偽装を公表
2月小林化工経口抗真菌薬への異種薬品混入で業務停止
3月日医工後発医薬品の不正な廃棄回避と試験の不実施で業務停止
3月東洋紡さらに3種類の樹脂でUL規格認証の取り消し
4月三菱電機電磁開閉器関連製品でUL規格不適合が発覚
緑色は世間を騒がせた品質不正、青色は同じく品質不具合、赤色は同じく設計不正によるものを示す。

 まるで亀裂が生じた後、それが進展していき、ついには破断に至る“金属疲労"現象であるかのように、日本企業をむしばみ続けてきた品質の弱体化が白日の下にさらされている(図1)。

図1 日本企業をむしばむ「品質問題」
図1 日本企業をむしばむ「品質問題」
まるで“金属疲労”であるかのように亀裂が進展し、このままいくと破断する危険性も見えてくる。(出所:日経ものづくり)
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 この品質問題には、品質データ偽装や検査不正などの不正はもちろん、大規模リコール(無償回収・修理)に至る品質不具合も含んでいる。悪意の有無に差はあるが、企業にもたらす負の影響は共に大きい。部品の共通化などが進んだ影響で、品質不具合が1つ生じるとリコールの数が大きく膨らむ傾向がある。

日本企業の品質に“金属疲労”

 品質問題の“亀裂”の始まりは2016年。同年4月に三菱自動車の燃費試験不正が、同年6月に神鋼鋼線ステンレス(大阪府泉佐野市)の試験データ改ざんが発覚した。

 三菱自動車は、試験時のデータ(走行抵抗値)を恣意的に改ざんし、軽自動車の低燃費を偽っていた。すぐにスズキの燃費不正も発覚。世間に与えた衝撃が収まらない中、翌年の17年には複数の自動車メーカーによる車両の完成検査不正の発覚へと“亀裂"は進展していった。

 一方、神鋼鋼線ステンレスでは、ばね用ステンレス鋼線の強度試験データの改ざんが発覚し、日本産業規格(JIS、当時は日本工業規格)認証を取り消された。孫会社のこの不祥事をきっかけに神戸製鋼所が品質監査を実施したところ、アルミニウム合金や銅、鉄鋼製品などで検査データの改ざんや検査の未実施という不正の実態が次から次へと明るみになった。

 これが社会的な問題にもなった一連の「品質データ偽装問題」となって“亀裂”の進展は一気に速度を増していく。神戸製鋼所と同社グループに限らず、日本企業の多くが品質データ偽装に手を染めており、不正内容の公表と謝罪を余儀なくされたからだ。

 世間の批判に応える形で、重い腰を上げたのが日本経済団体連合会(経団連)である。経団連は、加盟企業を対象に実施した品質データ偽装に関する調査結果を18年2月に発表した上で、「一定の効果があった〔膿(うみ)を出し切ったという意味〕」(経団連)と幕引きを図ろうとした。