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 品質とコストのアンバランスを招く要因は過剰品質だけではない。仮に過剰品質でなくても、その品質を実現するコストに見合った価格でなければ、部品メーカーや加工メーカーは利益を上げられない。結果、顧客が求める品質を維持するのも難しくなる。アンケート調査の結果をみると、製造コストに見合わない価格で買い叩かれる状況が浮かび上がる(図1)。

図1 品質を維持するのが難しくなる理由
図1 品質を維持するのが難しくなる理由
アンケート調査の結果。「品質を維持するのが難しくなる理由」としては「低価格化競争の激化」が58.7%と最も多かった。(出所:日経ものづくり)
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 背景にあるのは、「海外企業との価格競争、値上げを認めない顧客、無理な契約を断れない経営・営業」という構図だ。その結果、増大する作業やリスク、重くなる責任は製造現場に押し付けられる。

 「品質はただではない」という現場からの悲痛な声が響く。

値上げを認めない顧客

 市場のグローバル化に伴い、海外企業との価格競争は激化する一方だ。厳しい価格競争に勝ち抜くために、従来の「とにかく高い品質を」という姿勢の再考を迫られている。品質を上げればコストも上がる。にもかかわらず価格を維持したり、下げようとしたりすれば、品質に対して支払われる対価も下げざるを得ない。日本の製造業は、そんなジレンマに陥っている。

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受注価格が上がらない、見積もり金額を上げたら受注できなかったという背景には中国、台湾などの外国企業の存在がある。(その他の製造業、経営)

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提示する品質のコストが、顧客要求を大幅に超えていると指摘されるケースが増えている。「日本製品は高品質だから高価格でもよい」ではなく、適切なコスト感覚を身に付けて海外の競合企業と戦わなければならない。(コンピュータ関連メーカー、経営)

 激しい価格競争に巻き込まれた最終製品メーカーが、サプライヤーや加工メーカーに品質向上を要求しながら、値上げを認めていない状況もアンケート調査の結果から垣間見える(図2)。設計・仕様は曖昧なのにもかかわらず「低価格」という条件だけ決まっているケースもあるという。

図2 品質とコストの関係
図2 品質とコストの関係
価格競争が厳しくなる中、品質だけ上げてコストは据え置かれるケースが増えている。(出所:日経ものづくり)
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製造する製品のざっくりとした構成は決まっているが、具体的な仕様の数値は決まっていない。顧客に熱設計や回路の構成などについて質問してもきちんとした回答はない。競合製品との構成の違いから発生する使い勝手や特性などについても「競合製品との特性上の違いはない。価格だけが決まっていて、とにかく安価にしなくてはならない」の一点張り。そのメーカーの求める価格は、目標を達成するためにリスクも踏まえて決定している。下請けのメーカーはそのリスク分のコストまで背負わされるので、利益は引き下げられてしまう。(機械部品・電子部品メーカー、設計)

 適正価格で売れなければ利益は出ない。赤字のケースも珍しくないようだ。それでも顧客の要求は断れない。急激に変化する時代に追いつくには大企業の仕事を受注しなくてはならないといった事情もある。その顧客との取り引きで利益が出なくても、他の仕事で利益を出して辻つまを合わせている企業もあるようだ。

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ある顧客との取り引きで、過去に何回も赤字製品を量産した。しかし、その顧客は決して値上げを認めてくれない。自動車部品だけで黒字化するのは困難であり、他の製品を手掛け、全体でやっと黒字化できるというのが実状だ。しかし、その顧客は業界のリーダーのような存在でもあるので、何としてもついていかねばならない。そうしないと当社は製造業界の先端を走っていけない。その顧客から最新の情報を手に入れて、将来の開発の方向を見出しているからだ。(自動車等輸送用機器メーカー、その他)

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末端の加工メーカーなどは、時間単価2000~3000円といった、あり得ない金額で仕事を請負っているケースもある。「良い物をより安く」ではなく、もっと儲けないといけない。そうしなくては、社員や協力企業などに無用の負担を強いて、適正な報酬も支払えなくなる。(機械部品・電子部品メーカー)

 見過ごされがちなのが検査コストだ。発注する顧客が「検査は無料」と考えているのか、必要以上の検査を要求。そのコストをサプライヤー側が負担するという状況も生まれている。

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顧客は検査を「ただ」と思っているのか、「できる検査は全て実施するように」と要求してくる。しかし、検査項目が増えれば当然、経費も増える。検査項目が増えた分、その検査で不適合になるリスクも大きくなる。規格値が設定されるが、そこから外れた場合は不適合となり、全て当社の負担となる。製品を検査して合格品を出荷する(品質を保証する)のは、つまりその製品の品質を上げるのに等しい。しかし、品質保証のための検査は「ただ」ではない。こうした過剰な検査の要求を、販売価格が決まった後に追加する顧客さえいる。(教育・コンサルティング、営業)