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新型コロナウイルス対策として在宅勤務を中心としたテレワークが普及する一方、テレワークに取り組むビジネスパーソンにとってコミュニケーションは依然、大きな課題になっている。解決しないと業務の停滞などを招きかねない。そこでテレワーク先進企業の取り組みを中心に、課題の解決策を紹介する。今回は、「日々の業務における対話」の活性化策を押さえよう。

 2020年春以降、企業が新型コロナウイルス対策の一環でテレワークに大規模に取り組むと、「相手の状況が分からない」といった理由で、コミュニケーションが不足する課題に直面することが増えている。

 この課題は今なおテレワークに取り組むビジネスパーソンにとって大きな関心事だ。日経BP 総合研究所 イノベーションICTラボが2021年4月に実施した「働き方改革に関する動向・意識調査」によると、テレワークを利用する際に不便・不安と感じる点や阻害要因で最も多かったのは、「同僚(上司や部下を含む)とのコミュニケーションに支障がある」で48.9%だった。2020年10月に実施した前回調査と同じく最も多い要因になっている。

 しかし、コミュニケーションに課題があるからといって出社勤務に戻すのは惜しい。新型コロナウイルス対策の1つとして取り組んだ在宅勤務には社員の感染を防ぐ効果が見込める。さらに「通勤せずに済むので心身の負担を軽減できる」「パソコン作業などの仕事に集中できる」といった、社員にとってのメリットも多いからだ。

在宅勤務で対話する相手の状況がつかみづらくなる

 こうした課題に当初、直面して解決してきたのがキリングループだ。キリンホールディングスの山田俊和人事総務部人事担当主務は2020年春ごろの状況について、「リモートワーク前提の働き方にシフトしていく中で、コミュニケーションの取り方がそれまでオフィスで働いているときとは大きく変わってしまった。このことで、苦労していた職場は少なくなかった」と振り返る。

 キリングループは2020年4月、新型コロナウイルスの拡大や最初の緊急事態宣言を受けて、約1万人のグループ従業員を対象に、生産や物流などにかかわる業務を除いて、原則出社を禁止して在宅勤務をすることにした。

 在宅勤務を進める職場の担当者にヒアリングしたところ、多かった声が「社内にいるときとは違って、コミュニケーションを取ろうとする相手の状況が分からない」といったものだった。出社していれば他の従業員の表情や動きが把握できるが、在宅勤務ではそうした動きは捉えにくくなったのだ。

 キリンホールディングスの山田主務は「従業員と職場のつながりや、従業員と会社のつながりを感じ取れる取り組みを通して、テレワーク環境下でも従業員の心理的安全性をどう担保していくかが重要だった」と振り返る。心理的安全性とは、周囲に気兼ねなく意見が言えるといった状態を指す。

テレワーク環境下の好事例を発掘して共有

 キリングループはコロナ下の環境変化を企業と従業員がともに成長する機会とみなして、2020年7月以降、国内の全グループ従業員およそ2万人を対象に「『働きがい』改革 KIRIN Work Style 3.0」と呼ぶ取り組みを進めている。この取り組みの一環で、テレワークを前提とした社内コミュニケーションの活性化支援に乗り出している。具体的には、心理的安全性を担保した上でコミュニケーションを取っているグループ内の好事例を発掘・共有している。

 好事例の発掘や共有に携わっている山田主務は、「家でひとり働いていたり、ひとりで外回りをしたりしていても、同じ部署の人たちとビジネスチャットを介して、業務時間中、つながり続けているケースが多い」と指摘する。

 ある営業部門では、「(営業活動に)行ってきます」「ただいま戻ってきました」「きょう得意先でこんな出来事がありました」といった、出社時にオフィス内で交わしていた挨拶や会話を、ビジネスチャットのテキストメッセージで再現している。上司への営業活動の状況報告とは別に実施している取り組みだ。毎朝、部門内のリーダーが昨日あった出来事などを発信。すると他のメンバーも昨日あったことを次々に書き込んでいく動きも出ているという。「プライベートで仲の良い友人とチャットでやり取りしているときに近い感覚で、コミュニケーションが取れている」と山田主務は説明する。

 また別の営業拠点では、在宅勤務中の事務担当者が同じ拠点の従業員に向けて、「○×商店さんからこんな問い合わせが来ました」など、出社時に声を出して伝えていた内容を、ビジネスチャットのメッセージで発信するようにしている。営業担当者から「対応します」といった答えが返ってくる。「互いに離れて仕事をしていても、対応状況がリアルタイムで把握できるようにしている」(山田主務)という。

 こうしたチャットによるコミュニケーション活性化策について山田主務は「営業担当者のモチベーション維持に大きく寄与している」と話す。背景に、キリングループが手掛けるお酒や飲料の得意先である飲食店がコロナ禍で営業の自粛を余儀なくされていることがある。

 キリングループの営業担当者は厳しい状況にある得意先に寄り添ってはいるものの、自身の気持ちもめいることが少なくないという。「そうした状況でも、他のメンバーとビジネスチャットでつながることで、自分ひとりではないことを実感したり、部署内の意識の方向性を再確認できたりしている」と山田主務は説明する。