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新型コロナウイルス対策として在宅勤務を中心としたテレワークが普及する一方、テレワークに取り組むビジネスパーソンにとってコミュニケーションは依然、大きな課題になっている。解決しないと業務の停滞などを招きかねない。そこでテレワーク先進企業の取り組みを中心に、課題の解決策を紹介する。今回は、「経営トップと社員」「企業と社員」のコミュニケーション活性化策を押さえよう。

 「経営トップはどのような考えを持っているのか」「会社の業績はどういう状況なのか」「他部署はどのような取り組みをしているのか」――。テレワークを大規模に実施する企業では、社員がこうした疑問を持つことは多い。

 社員が抱きがちなこれらの疑問は、企業と社員との間のコミュニケーションを活性化することで解消しておきたい。「会社への帰属意識が薄れる」「他の社員との一体感が得られない」といった理由から、社員の業務パフォーマンスが低下したり、離職したりする事態を招きかねないからだ。

 テレワーク先進企業は、こうした疑問を解消するためのコミュニケーション活性化策を様々に講じている。今回はZOZO、ぐるなび、コニカミノルタジャパン、ヌーラボ、そしてイーブックイニシアティブジャパンの5社の取り組みを見ていく。

 こうした企業は、社長自らが動画配信を通して、熱量を持って社員にメッセージを発したり、オンライン社内報というメディアを活用してコミュニケーションの幅を広げたりしている。テレワーク下であっても事業面で成果を上げた事例などの積極的な共有も進めている。社員が社内の動きを「自分ごと化」して捉え、モチベーションの向上につながるようなコンテンツの提供がカギのようだ。

全社に向けてライブ配信、社長の言葉を温度感と一緒に伝える

 複数の策を講じているのが、2020年春以降、倉庫運営やコールセンター以外の部署で、在宅勤務を基本的な働き方にしているZOZOだ。同社は月1回の割合で「全体朝礼」と呼ぶ社内向け動画を、コロナ前の出社勤務時と同様に、コロナ下でも配信している。スタッフが在宅勤務をしているときにもパソコンなどで閲覧できる。

 全体朝礼では、澤田宏太郎社長兼CEO(最高経営責任者)による業績などに関する前月の振り返り、新しいサービスや新施策などを紹介していく。コロナ前は協力会社の支援を得てライブ配信をしていたが、2020年春以降、社内のスタッフが配信を担当。半年ほどは、事前収録した動画を配信していたが、同年秋以降、ライブ配信に切り替えている。

 ライブ配信への切り替えについて、ZOZO人自本部フレンドシップマネージメント部の藤原香里氏は「ライブ配信のほうが録画よりも、見ているスタッフにとって参加しているという臨場感がより高まる。社長からのメッセージなどを高い温度感とともに伝えることもできる」と説明する。ライブ配信の動画を見ると、スライドやテロップなどを配置して、テレビのニュース番組さながらの画面構成になっている。

ZOZOが月1回、実施している「全体朝礼」の社内向けライブ配信の様子。澤田宏太郎社長兼CEO(最高経営責任者)が前月の業績などについて話す。画面にはスライドやテロップなどを配置している
ZOZOが月1回、実施している「全体朝礼」の社内向けライブ配信の様子。澤田宏太郎社長兼CEO(最高経営責任者)が前月の業績などについて話す。画面にはスライドやテロップなどを配置している
(出所:ZOZO)
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ECショップや部署の活躍を伝えて「自分ごと化」してもらう

 全体朝礼では、社長のメッセージ以外にも、各部署で働いているスタッフの目線で社内のトピックをできるだけ多く紹介するようにしている。具体的には、運営している衣料品EC(電子商取引)モール「ZOZOTOWN(ゾゾタウン)」で特に売り上げが好調なECショップや、様々な部署の活躍などだ。

 藤原氏は「社内の取り組みも全体朝礼で紹介することで、他の部署などの頑張りをスタッフが自身のことのように捉える自分ごと化してもらえるように心掛けている」と説明する。この「自分ごと化」をリモートにおけるスタッフとのコミュニケーションで重要視しているという。

 「スタッフが会社のことを好きだという前提があるが、好きな人のことを深く知りたいと思うのと同じように、好きな会社のことも深く知りたいはず。こうした深く知りたいことを、スタッフに届けていくのが大事だと考えて、自分ごと化できるようなトピックの紹介を重視している」と藤原氏は説明する。「楽しく働くということを、当社のワークスタイルに掲げている。スタッフが楽しく働くためにも自分ごと化はとても重要だ」と続ける。

 ZOZOの梅澤孝之人自本部フレンドシップマネージメント部ディレクターも、自分ごと化できるコンテンツをスタッフに提供することを重視している。テレワークは効率的な働き方ではあるものの、スタッフ個人の孤立感が強まったり、「会社の一員である」といった一体感が薄れたりしがちだ。テレワーク環境下でもスタッフが全体朝礼を通して会社の動きや仲間の取り組みを自分のことのように捉えることができれば、「仲間のことを考えて仕事に取り組んでもらえる。こうした取り組みが会社の成長にもつながっていく」と梅澤ディレクターは説明する。

 全体朝礼のライブ配信によって、「スタッフの活躍を受けて自分も奮起する」といった動きが社内で出ているという。ZOZO人自本部フレンドシップマネージメント部の大薗茉利子氏は「同期のスタッフが紹介されると、そのスタッフの頑張りもたたえることができるし、自分も頑張ろうという気持ちになれる」と話す。

社内ラジオでスタッフの仕事や趣味を深く紹介

 ZOZOが取り組むライブ配信はこれだけではない。2020年秋以降、音声のみのライブ配信「DJさわだのナナメウエラジオ!!」にも取り組んでいる。配信は毎週水曜日の午後1時から30分間で、スタッフが休憩中や午後の仕事始めに耳を傾けられるようにしている。

ZOZOが手掛けるライブ配信「DJさわだのナナメウエラジオ!!」の風景。澤田社長兼CEOがパーソナリティーを務める
ZOZOが手掛けるライブ配信「DJさわだのナナメウエラジオ!!」の風景。澤田社長兼CEOがパーソナリティーを務める
(出所:ZOZO)
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 この配信では、澤田社長兼CEOがパーソナリティー役となって、ゲストであるスタッフ1人に仕事や趣味の話などを詳しく聞いていく。番組名に含まれる「ナナメウエ」という言葉はZOZOらしさを表す標語として2020年11月に掲げた「ソウゾウのナナメウエ」からきている。「ソウゾウのナナメウエ」は、これまで誰も見たことがないサービス創出などのやり方を表現している。

 毎回の内容は、仕事の話だったり、趣味の話で盛り上がったりと、ゲストによって異なり、バラエティーに富んでいるという。次のゲストは出演しているスタッフが電話をかけて指名する。番組はゲストをつなぎながら回を重ねている。

 ゲストとして出演したスタッフからは「楽しかった」「出演して面白かった」という声が多いという。大薗氏は「リスナーのスタッフからも、身近にいるスタッフが話しているのを聞くことができてうれしい、といった声が寄せられている」と話す。

 DJさわだのナナメウエラジオ!!がきっかけで社内のコミュニケーションは活発になっている。ゲストのスタッフが仕事の依頼を番組で広く呼び掛けたところ、配信を聞いていたあるスタッフが応じて、その仕事が進んだ。「趣味などの話をしたことがきっかけで、他のスタッフから声をかけられて知り合いが増えたスタッフも出てきている」と大薗氏は説明する。梅澤ディレクターは「今後も続けていき100回の配信を目指す」と見通しを語る。