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 三菱電機の社長辞任にまで発展した検査不正問題。検査時に品質データを巧妙にねつ造する「データ自動生成プログラム」の存在が、最も世間を驚かせた。こうした検査不正を防ぐ対策を考える上で大切なのは、まずは検査不正の「リアル」を知ることだ。
 前編は、生産現場でよくある4種類の検査不正について紹介した。後編は、検査不正の具体的な手口と、検査不正を見抜くには何が必要かについて解説する。前編と同じく、ものづくりに詳しい経営コンサルタントであるジェムコ日本経営(東京・千代田)本部長コンサルタントの古谷賢一氏に、生産現場で行われている検査不正の手口の実態について明らかにしてもらう。(近岡 裕=日経クロステック)

ねつ造と改ざん、中身はそれぞれ3つずつ

 検査不正の手口は、大きく「ねつ造」と「改ざん」に分けられる。それぞれについて手練手管を詳しく解説していく。

検査不正の手口
検査不正の手口
ねつ造と改ざんの大きく2つに分けられ、それぞれで巧妙な不正行為が行われている。(出所:日経クロステック)
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(1)データのねつ造(ないデータをあるようにでっち上げる)

①過去の合格値をコピー&ペーストで活用する

 ねつ造するといっても、でたらめな値を作り出すのは案外、骨の折れる作業だ。その労力を減らすために、過去に経験した合格値(実際に合格の実績があるもの)を活用するのが、ねつ造する際の常とう手段となっている。実績のある値なので、でたらめな値をわざわざ考えるよりは心理的な抵抗も少ない。

 昔の検査結果を一部、または、そのままコピーして活用するので手間もかからない。過去の複数の検査結果を組み合わせて活用する場合もある。過去の検査結果をそのままコピーするのではなく、少しだけ数値を変えるといった合わせ技を使うケースもある。

②他製品や試作時のデータを流用する

 合格値をコピー&ペーストするという意味では①と同じだが、データの出所を類似する他の製品のものにしたり、試作時や評価時のものにしたりすることがある。いわゆる「チャンピオンデータ」と呼ばれる、特に好条件で良い結果が出たときの検査結果を活用する手口もある。

③理論的にデータを算出する

 データの整合性やばらつきなどを考慮し、理論的に無理のない値を「創出」する手口も見られる。この場合、不正データを「創出」するためのプログラムを活用する手法などもある(編集部注:三菱電機の検査不正で世間を驚かせたデータ自動生成プログラムがまさにこれである)。

 単なるランダムなデータでは不正が露見する可能性が高いため、正規分布の概念を導入したり、ロット変動に見える動きを加味したり、気候変動を考慮したりして、より「真実味のあるデータ」に仕立てるケースもある。こうした技術的に巧妙な手口を使われると、不正行為を見抜くのは難しくなる。

 この手口の場合、技術的な難易度が高い分、複数の関係者が共謀している可能性が高いという特徴がある。例えば、生産現場の人間に対して技術者から指南して実行に移しているケースが見られる。