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 東京オリンピック・パラリンピックでは競技の映像データが選手の活躍を支援した。国を挙げた支援の一例が、国立スポーツ科学センター(JISS)が運営する映像データベース「JISS nx」である。「オリンピックやパラリンピックの種目になっている50競技種目について、60万件を超える映像データが保管されており、IDベースで5000アカウントが利用している」(JISSの三浦智和スポーツ科学部スポーツ科学課課長補佐)。

車いすバスケットボールなどで「意識改革」

 JISSは代表チームのコーチやアナリストに対し、JISS nx内の映像データを分析したり戦略策定に使ったりするよう促している。というのも、そもそもJISS nx内の映像データはそれぞれのチームのコーチやアナリストなどが撮影した映像をアップロードしたものを含むからだ。

 アップロードの際、投稿者は選手名や大会名、種目名などのメタデータを付している。これは競技によって試合時間が異なったり、撮影者が試合を区切って撮影したりするため、映像データの長さがまちまちであるためだ。メタデータによって、選手やスタッフなどが見たい映像や場面を適切に検索できるというわけだ。

 JISSは東京オリンピック・パラリンピックの期間中、オリンピック放送機構(Olympic Broadcasting Services:OBS)の映像を受信する契約をOBSと結んだ。併せて「映像分析室」を設け、代表チームのアナリストやJISSのスタッフが映像を分析した結果をそれぞれのチームに提供した。今大会は新型コロナの影響で会場への入場制限が厳しかったため、代表チームのコーチが映像分析室を訪れて、OBSの映像を見ながら遠隔で選手にアドバイスする競技もあったという。

 JISSがオンプレミスのサーバー上にJISS nxを構築し、運用を始めたのは2006年に遡る。2006年に運用を始めたのはJISS nxの前身であるSMART-systemで、2016年からJISS nxとして運用している。

 「国内大会だけでなく、ワールドカップや世界選手権などの国際試合を含む様々な試合の映像に加え、国内外での合宿などで撮影した映像も保管している」(三浦課長補佐)。JISSは基本的にJISS nxというプラットフォームを提供し、映像データの分析は各チームに任せている。ただアナリストがいないチームにはJISSが人員を派遣して分析を支援するケースもある。

 JISS nxの機能は順次拡張している。2016年にはスマートフォンの専用アプリでも動画を見られるようにし、利用者がさらに増えたという。映像データを専用アプリにダウンロードできるようにすることで電波状況が悪い会場でも映像を見られるようにしたり、異なる映像を2画面で比較しながら視聴できたりするようにもした。

 映像データは選手の意識改革につながっている。例えば「車いすバスケットボールのナショナルチームは合宿でビデオミーティングの時間を設けており、そこでは映像データを基にメンバーが自主的に集まってプレーについて話し合うようになった」(三浦課長補佐)。

映像を見ながら全ての動きと結果をデータで入力

 日本フェンシング協会も試合の映像データの分析に注力する。同協会の千葉洋平強化本部アナリスト兼監督補佐は米Hudl(ハドル)の映像分析ツール「Sportscode」を使った独自の分析手法を開発し、フェンシング男子フルーレのチームを支援している。

 選手は1試合中に60~70回ほど、攻撃のアクションを起こしている。千葉アナリスト兼監督補佐は映像を見ながら、その全てに対して、アタックやカウンターの種類、コートのどこでアクションを起こしたのか、その結果どうなったのかなどのデータを、1つひとつ手作業で入力している。

日本フェンシング協会の千葉洋平強化本部アナリスト兼監督補佐がまとめた各種データ
日本フェンシング協会の千葉洋平強化本部アナリスト兼監督補佐がまとめた各種データ
(出所:千葉洋平氏)
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 入力するのはポジティブなデータだけではない。「アタックやカウンターなどによる得点率はだいたい20%前後で、70%以上はミスになる。そのミスの種類も入力している。データを積み重ねると、得点や失点のパターン、不得意分野、有効な戦略などが見えてくる」(千葉アナリスト兼監督補佐)。