全1852文字
PR

 東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会は2021年9月30日、「大会運営に影響を及ぼすサイバー攻撃は確認されなかった」と理事会で総括した。警察庁も「運営を妨害するサイバー攻撃による被害はなかった」と同年9月9日に公表。「東京大会はサイバー攻撃から守られた」と、関係者の評価はほぼ一致した。

 攻撃そのものは今大会でも活発だった。組織委員会の集計によると、2021年7月23日~9月5日の大会期間中に関係組織や公式サイトなどで検知・遮断した不正通信などの攻撃回数は4.5億回に達した。2012年のロンドン大会で検知した攻撃回数の2億回に対して2倍以上である。

東京大会期間中に見つかった、フィッシングサイトとみられる偽のオリンピック競技の動画サイト
東京大会期間中に見つかった、フィッシングサイトとみられる偽のオリンピック競技の動画サイト
(出所:内閣サイバーセキュリティセンター)
[画像のクリックで拡大表示]

 「官民でサイバー攻撃に関する情報を広く共有したことで、2019年11月からインシデント(重大事故につながりかねない事象)が急増しても大会システムへの侵入を防いできた」。組織委員会の坂明CISO(最高情報セキュリティー責任者)はこう振り返る。

東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会の坂明CISO(最高情報セキュリティー責任者)
東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会の坂明CISO(最高情報セキュリティー責任者)
(撮影:日経クロステック)
[画像のクリックで拡大表示]

官民をまたぐ350組織が攻撃情報を共有

 東京大会のサイバーセキュリティー対策には、組織委員会や開催都市である東京都をはじめ、内閣官房や警察庁など多くの行政機関が関わった。そのなかで官民をまたぐ情報共有の中核となったのが、内閣サイバーセキュリティセンター(NISC)が2019年4月に発足させた「サイバーセキュリティ対処調整センター(以下センター)」である。

 前述の行政機関のほか、重要インフラ事業者、スポンサー企業、競技団体、競技場運営者など350強の関係機関が参加し、合計4000人弱が情報共有に関わった。日本では前例のない規模での取り組みだった。

 センターは予行を兼ねて、2019年に国内で開かれた国際イベントから活動を始めた。2019年6月に大阪市で開催された20カ国・地域首脳会議(G20サミット)や2019年9月に開幕したラグビーワールドカップ(W杯)日本大会である。