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 デジタルトランスフォーメーション(DX)の高まりを受け、企業や行政機関のシステム開発プロジェクトでアジャイル開発の導入が進んでいる。従来のウオーターフォール型ではない開発が増えたことで、ITシステム契約の在り方も変化している。契約面で失敗しないために何にどう気を付けるべきか。事例と専門家の解説からひもとく。

初めての本格アジャイル、準委任型契約で開発

 東京証券取引所は2021年2月1日、アジャイル開発の手法を初めて本格的に使った新システムを稼働させた。ETF(上場投資信託)のオンライン取引システムである「CONNEQTOR(コネクター)」だ。機関投資家はCONNEQTOR上で売買したいETFの条件を入力し、マーケットメーカー(値付け業者)に対して価格の提示を依頼する。提示された価格で発注すると、証券会社経由でToSTNeT(東証立会外市場システム)に自動発注される仕組みだ。

CONNEQTORの仕組み 
CONNEQTORの仕組み 
(出所:東京証券取引所)
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 稼働後の約5カ月間で金融機関約40社がCONNEQTOR経由で価格の提示を依頼しており、目標としていた10社以上を大きく上回った。稼働来売買代金は100億円を超え、拡大見込みという。CONNEQTORを使った金融機関からの評判は「(取引が)早く簡単だった」と上々で、東証の主要顧客ではなかった信用金庫や信用組合、地方銀行にも広がった。

 東証のIT開発部は2019年11月にCONNEQTORの開発に着手した。この際、アジャイル開発を選んだ。ETFのオンライン取引は全くの新規サービスで利用者に対する知見もなく、システムの機能に不確定要素が多かったためだ。ITベンダーの富士通とは、ウオーターフォール型で結んできた「請負型」ではなく、「準委任型」でシステム開発の契約を結んだ。

 一般に、システム開発の契約形態には、請負型と準委任型がある。請負型では、受注者はシステムを完成させて発注者に引き渡す義務を負う。一方、準委任型では受注者は委任事務を処理する義務は負うが、完成義務は負わない。情報処理推進機構(IPA)は2020年12月に第2版を公開した「情報システム・モデル取引・契約書」で、ウオーターフォール型は請負型で進めるものとしている。

 一方、IPAは2020年3月に公開したアジャイル開発版の「情報システム・モデル取引・契約書」において、アジャイル開発を外部委託する場合は「準委任契約が前提」としている。準委任型では契約時点で最終成果物を明確に決め切れない。東証はCONNEQTOR開発で富士通と結んだ準委任契約では「甲乙協議のうえ、優先順位の高い要求項目から順に、実施期間の範囲内で選択して実現します」としている。

 準委任契約でアジャイル開発を進めるには、具体的にはどこに気を付けるべきか。東証のCONNEQTOR開発事例と専門家の解説から3つのコツが浮かび上がってきた。

契約の目的を明確にする

 1点目は、契約の目的をできるだけ明確にすることである。多数のシステム裁判で調停を担当し、システム開発を巡るトラブルに詳しいITコンサルタントの細川義洋氏は「目的を定量的に、なるべく具体的に書くように勧める」と話す。一方、駄目な目的の書き方は「〇〇システムをつくること」「コスト削減」といったものだという。この点、東証はCONNEQTORの開発に当たり、「システムではなく(オンラインでのETF取引という)サービスをつくることを目的とした」(近藤誠之IT 開発部課長)。