用途を限定することも、軽の電気自動車(EV)の低コスト化に有効だ。走行距離や走行ルートが限定された商用や、街乗り・ちょい乗りの要素が強いカーシェアや相乗りのようなMaaS(Mobility as a Service)に用途を限定すれば、航続距離や最高速度、乗車定員などで割り切ることが可能になる。
軽トラックなら最高出力30kWの選択も
参考になりそうな例の1つが、フランスValeo(ヴァレオ)の日本法人であるヴァレオジャパンと群馬大学が共同で試作した軽EVトラックだ(図1)。高速道路はあまり乗らないと割り切ることで、モーターの最高出力を30kWに抑制。48V電源システムを使った最高出力15kWの電動アクスル(モーター、インバーター、ギアボックス)を前後の車軸に搭載することで具現化した。同電動アクスルはP2のハイブリッド車(HEV)向けに開発していたもので、HEVと共通化することでコストを抑えられる。外形寸法は350×290×400mmで、2021年中の量産開始を予定する。
前後合わせて30kWとしたのは、「地方では、『あまり距離は乗らない。でも、農作業をするときに泥道などを走ることから4輪駆動(4WD)の機能がほしい。ただ、高速道路には乗らない』といった利用者もいる」(ヴァレオジャパン日本パワートレインシステムビジネスグループリサーチアンドディベロプメントディレクターの高橋明博氏)からだ。
最高出力が30kWでも、減速比を大きくすれば発進・加速時に力強いトルクを出せる。ただ、そうした減速比のままで高速走行すれば、効率は悪化する。しかし、高速道路にはあまり乗らないと割り切れば、同30kWでも通用するという訳だ。ちなみに、変速機を積めば、「従来の軽自動車に近い性能を出せる可能性はある」(同氏)という注1)。
駆動用の電池としては、外形寸法が620×474×250mmの容量13kWh品を、荷台の下のキャビン側に2つ搭載する。「試作車ということで多めに積んだが、16kWhくらいが適切と思っている」(ヴァレオジャパンパワートレインシステムビジネスグループ日本&アセアンディレクターのGilles Kilidjian氏)とする。充電1回当たりの航続距離(以下、航続距離)については、明らかにはしていないが、目標の100km(WLTCモード)は大幅に超えているとみられる注2)。
「高齢者層では免許返納に伴う移動のニーズが急増している」「運転経験が浅い層は、日々の買い物や子どもの送り迎えに自動車を利用することに不安があり、自転車や原動機付自転車に代わる、雨風をしのげる安全で安心な移動手段に対するニーズがある」「近隣営業を行う営業職層は、1日の移動距離が15km未満と短く、車両稼働率も20%以下。軽自動車ほどの高い性能・機能は要らないと感じている」―。そうしたニーズを強く意識して、超小型EVを開発する新会社「出光タジマEV」を設立したのが、出光興産とタジマモーターコーポレーションである(図2)。
両社は、超小型EVやそれを使ったMaaSを開発し、既存の移動手段ではニーズが満たされない層に対して新たな移動手段を提供することを目指す注3)。出光興産では、そうした超小型EVの需要を、年間100万台規模と推定している。
新会社が開発しようとしているのは、既存の軽自動車よりも一回り小さく小回りが利く国土交通省の「超小型モビリティ(型式指定車)」規格に準拠した4人乗りの超小型EVだ(図3)。目指す車両価格は、150万円以下とする。
最高速度は60km/h以下、走行距離は8時間充電で120km前後と割り切ってコスト圧縮につなげる。同年2月時点では、搭載するモーターの最高出力は15kW、電池容量は10kWh、電池総電圧は60V、外形寸法は全長2495×全幅1295×全高1765mmを想定仕様としていた。
また、採用する電池は、リサイクル品も含めて検討する考え。一番適した電池を選択して低コスト化につなげる。
法人や自治体向けの限定販売という形で、20年12月に超小型モビリティ(型式指定車)に準拠した超小型EV「C+pod」を発売したのがトヨタ自動車だ(図4)注4)。日常生活における近距離移動や定期的な訪問巡回といった法人利用など、都市・山間部などそれぞれの地域に即した安心・自由かつ環境に良い移動手段を目指したもので、乗車定員は2人、最高速度は60km/h、航続距離(WLTCモード)は150kmと割り切ってコストを抑制する。駆動方式は後輪駆動、モーターの最高出力は9.2kW、搭載する電池の容量は9.06kWhとしている。