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 東京都墨田区に新設された「千葉大学墨田サテライトキャンパス(千葉大学デザイン・リサーチ・インスティテュート、略称dri)」の計画である。2021年4月に供用を開始している。

改修によって屋根を架け替えた後の北側外観。くの字形平面の1階中央部分に、既存の内部空間を外部化した、ゆったりした通り抜け空間を実現した。屋内外を一体利用しやすくする庇空間や、まち全体を見渡せる5階「スカイツリーテラス」などを新設し、地域と連携する建築としてのたたずまいを表現している(写真:安川千秋)
改修によって屋根を架け替えた後の北側外観。くの字形平面の1階中央部分に、既存の内部空間を外部化した、ゆったりした通り抜け空間を実現した。屋内外を一体利用しやすくする庇空間や、まち全体を見渡せる5階「スカイツリーテラス」などを新設し、地域と連携する建築としてのたたずまいを表現している(写真:安川千秋)
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 1986年に開設以来、区内の中小企業に対して経営・技術支援する役割を担ってきた旧すみだ中小企業センターをコンバージョンした。

 同センターは1階に吹き抜けのエントランスホールと工房、3階に図書館、4階に天井高のある体育館を有する複合施設として使われてきた。30年以上の長年、区⺠に親しまれてきた歴史と風合いを持つ。低層の住宅や工場が立ち並ぶ中で、陶器質タイルの外観が公園(あずま百樹園)の緑越しに垣間見える、赤銅色に染まったコールテン鋼の勾配屋根が印象的な建築だった。

 本計画は、17年3月に墨田区と千葉大学が包括的連携協定を締結したところから始まる。18年3月に「公共資源を活かし再生する“街と一体となったキャンパスをつくる”」というコンセプトの基本構想を策定。同年5月、区が設計プロポーザルを実施した。

街区全体をキャンパスとして街との交流・密接な関係性をつくる
街区全体をキャンパスとして街との交流・密接な関係性をつくる
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 私たち(久米設計)は、既存建築を比較的そのままの形でうまく活用するという、基本構想の中にある本質的な理念に着目。既存不適格であった高さ制限に抵触する部分を屋根の架け替えによって解消し、現行の建築基準法に適合させる再生計画を提案した。

 空間的な余裕を持つ建築のポテンシャルを最大限に生かし、デザイン教育の現場からの要請にフレキシブルに対応できる学校に再生する。そうすれば、将来にわたって区⺠と学生が自由な発想の下に使い続けていける建築となる。現行法に適合させておけば、以後の改修や増築、用途変更の手続きを容易にできるメリットがある。

 墨田区にとって、大学誘致は⻑年の悲願だった。これまで大学のなかったまちに同区の特徴である地域工業と連携するものづくり系の大学ができる。墨田の地域工業に触れる実践的なデザイン教育の場となり、将来のまちづくりを担う子どもたちに対しても刺激を与えるはずだ。

1階東ウイングのエントランスホール(写真:安川千秋)
1階東ウイングのエントランスホール(写真:安川千秋)
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1階西ウイングの工房(モデルショップ)。工房は、木工、金属、クレイの各素材別加工エリアと塗装エリアの4つで構成。創作活動の様子は、公園側の開口部越しに間近に見ることができる(写真:安川千秋)
1階西ウイングの工房(モデルショップ)。工房は、木工、金属、クレイの各素材別加工エリアと塗装エリアの4つで構成。創作活動の様子は、公園側の開口部越しに間近に見ることができる(写真:安川千秋)
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 使いこなされる中で新陳代謝を繰り返す建築の姿を、「まちの風景」にしたい。そこで設計に際しては、常に更新していけるオープンな空間環境を生み出そうと考えた。

 既存建築は、くの字形平面の東西両サイドに大きな吹き抜け空間を重ね、中央の折れ曲がり部に構造・設備のコアを配置する構成になっていた。私たちは、このコアを解体し、全体にバランスよく再配置することを提案した。元の構造の在り方とは逆転させるので困難を極めたが、全階で両サイドの大きな空間を一体化。天井の高い、見通しが利く研究活動の場を実現できた。

 架け替えた既存の屋根材(コールテン鋼)は、地域の人々の目に触れる部分に再利用した。他の個所も、可能な限り元の記憶を残すように心掛けた。

上の写真は、3階のスタジオ型ラーニングスペース。図書館だった場所を改修した東ウイングの部分。6ユニット程度を想定し、ターム(授業期間)ごとに場所やサイズを変更しながら利用する。吹き付け耐火被覆がない鉄骨鉄筋コンクリート構造を生かし、既存天井材を解体。天井の高い、気積のある空間に再生した(改修前の写真:久米設計、写真:安川千秋)
上の写真は、3階のスタジオ型ラーニングスペース。図書館だった場所を改修した東ウイングの部分。6ユニット程度を想定し、ターム(授業期間)ごとに場所やサイズを変更しながら利用する。吹き付け耐火被覆がない鉄骨鉄筋コンクリート構造を生かし、既存天井材を解体。天井の高い、気積のある空間に再生した(改修前の写真:久米設計、写真:安川千秋)
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下の写真は、4階のイノベーションアトリエ。体育館だった場所を改修した西ウイングの部分。東ウイングの4~5階フロアとオープンにつながる。架け替えた屋根にはトップライトを設け、自然光を和らげるスクリーンを吊るしている。既存フローリングを研磨し、保存活用した(改修前の写真:久米設計、写真:安川千秋)
下の写真は、4階のイノベーションアトリエ。体育館だった場所を改修した西ウイングの部分。東ウイングの4~5階フロアとオープンにつながる。架け替えた屋根にはトップライトを設け、自然光を和らげるスクリーンを吊るしている。既存フローリングを研磨し、保存活用した(改修前の写真:久米設計、写真:安川千秋)
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4階のイノベーションアトリエ。写真は、建築、デザイン、都市環境、ランドスケープの4学科合同による卒業制作展の様子。新キャンパスにおける最初の地域開放イベントとして21年3月末に実施した(写真:安川千秋)
4階のイノベーションアトリエ。写真は、建築、デザイン、都市環境、ランドスケープの4学科合同による卒業制作展の様子。新キャンパスにおける最初の地域開放イベントとして21年3月末に実施した(写真:安川千秋)
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