産業革命以降の世界の平均気温上昇を1.5℃以下に抑えない限り、我々人類は気候危機の連鎖から逃れることはできないと、国連気候行動サミット2019は警鐘を鳴らした。2030年までにCO2を45%削減し、2050年にはカーボンニュートラル(温暖化ガスの排出量実質ゼロ)を実現しなければならない。これを受けて、多くの報道はクルマの電気自動車(EV)化ばかりを伝えている。だが、「カーボンニュートラルに向けた道筋で重要なことは、EV化ではなく、全産業を対象とした燃料と電気エネルギーのグリーン化だ」と愛知工業大学工学部客員教授の藤村俊夫氏は訴える。間違いだらけのCO2削減戦略を改め、日本政府と産業が取るべき「あるべきCO2削減戦略」を同氏が提案する。

特集
間違いだらけのCO2戦略
藤村俊夫(ふじむら としお)
愛知工業大学工学部客員教授(工学博士)、元トヨタ自動車、PwC Japan自動車セクター顧問をはじめ数社の顧問を兼任。
1980年に岡山大学大学院工学研究科修士課程を修了し、トヨタ自動車工業入社。入社後31年間、本社技術部にてエンジンの設計開発に従事し、エンジンの機能部品設計(噴射システム、触媒システムなど)、制御技術開発およびエンジンの各種性能改良を行った。2004年に基幹職1級(部長職)となり、将来エンジンの技術開発推進、将来エンジンの技術シナリオ策定を行う。2011年に愛知工業大学工学部 機械学科教授として熱力学、機械設計工学、自動車工学概論、エンジン燃焼特論の講義を担当。2018年4月より愛知工業大学工学部客員教授となり、同時にTouson自動車戦略研究所を立ち上げ、PwC Japan自動車セクター顧問をはじめ、コンサルティングや講演活動を行う。
活動(研究歴、所属学会、著書など): 自動車技術会 代議員/論文校閲委員。2001年「ディーゼル新触媒システム(DPNR)」で日経BP賞技術賞エコロジー部門賞受賞、2003年「ディーゼルPM、NOx同時低減触媒システムDPNR」で日本機械学会技術賞受賞
目次
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日本の針路は「グリーン燃料製造プラント」 自動車戦略の基盤
第6の警鐘
第5の警鐘で述べたように、グリーン燃料化は再生可能エネルギーでどれくらい多くの水素を効率的かつ安価(目標は天然ガス並みの200円/kg)に製造するかが鍵となる。水素を原料とした合成液体燃料(e-Fuel)やアンモニア、合成メタンの製造効率の向上と、コスト低減が重要となる。
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グリーン燃料に言い訳は無用 2050年にらむ脱化石化の道筋
第5の警鐘
自動車から航空機、船舶、産業機械、農耕機械、家電製品まで、いずれも燃料やエネルギーがなければただの“鉄くず”であり、これらを稼働するために使用してきた化石燃料が二酸化炭素(CO2)の発生源である。
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EV対HEVでCO2を算出 LCAでも価格でもHEVに軍配
第4の警鐘
2018年時点で電力は全体の約46%を消費する。内訳は、再生可能電力が9%、石炭や天然ガスなどを使う火力発電所が34%、原子力が3%となる。
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なぜ各国政府はエンジン車廃止に傾注するのか その裏を読む
第3の警鐘
各国首脳が宣言した2030~35年におけるエンジン車の販売禁止(以下、エンジン車廃止)には、それぞれ裏がある。
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お粗末な菅首相の脱炭素表明、したたかなバイデン大統領の戦略
第2の警鐘
日本は7年にもわたる第2次安倍晋三政権下で、エネルギー政策の検討はほとんど進んでいない。2018年の「第5次エネルギー基本計画」は、2014年の基本計画に対してほとんど手が加わっていないお粗末なものである。国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP)や気候行動サミットでも、二酸化炭素(CO2)削減に…
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国の仕事はエネルギー政策、EV化ありきの自動車戦略ではない
第1の警鐘
2019年9月に開催された国連気候行動サミットや、2020年の新型コロナウイルスによるパンデミック(世界的大流行)禍で、ようやく二酸化炭素(CO2)削減に取り組む機運が高まってきた。ただし、2050年カーボンニュートラル(温暖化ガスの排出量実質ゼロ)の実現までに残された時間は長くない。世界が協調し…