2019年9月に開催された国連気候行動サミットや、2020年の新型コロナウイルスによるパンデミック(世界的大流行)禍で、ようやく二酸化炭素(CO2)削減に取り組む機運が高まってきた。ただし、2050年カーボンニュートラル(温暖化ガスの排出量実質ゼロ)の実現までに残された時間は長くない。世界が協調して実効性のある対策を講じなければ、産業革命以降の世界の平均気温上昇を1.5度(℃)以下に抑えられず、気候危機の連鎖を食い止めることはできない。
各国は2050年カーボンニュートラルを掲げ、米国の呼びかけによる2021年4月の気候変動サミットでは、中国やロシアなど40カ国・地域が参加し、2030年の目標議論をオンラインで交わした。2021年11月に英国で国連気候変動枠組み条約第26回締約国会議(COP26)が開催されるまでに、各国が明確な目標とそれを実現するための道筋(絵に描いた餅ではない)を練り、持ち寄ることを期待したい。
自動車の目指す姿は電動化ありきではない
ここ半年の菅義偉首相のCO2削減に関わる表明の裏にあるものと、各国政府首脳のエンジン車廃止表明に至った理由を分析すると、それらがあまりにも稚拙であることが見えてくる。確固たるエネルギー政策に裏打ちされた戦略ではないのだ。さらには、その表明に合わせたかのように、提携関係にある米General Motors(ゼネラル・モーターズ;GM)とホンダが、2035~40年までに全て電気自動車(EV)と燃料電池車(FCV)にすると表明した。
自動車の目指すべき姿は、電動化ありきではない。燃料や電力を含めたWell to Wheel(WtW;油田からタイヤを駆動するまで)でのCO2排出量を減らすことであり、さらにはライフサイクルアセスメント(Life Cycle Assessment:LCA)でカーボンニュートラルを実現することにある。各国政府とこれらのメーカーには、少し冷静になって考えていただきたい。
CO2削減で最も大切なのは、確固たるエネルギー政策を各国政府が立案し、その実現に向けて全ての産業活動を後押しすることにある。自動車や旅客機、産業機械、家電などは、エネルギーがなければただの鉄くずだ。製品および機械の効率改善はメーカーの責任で進めなければならないが、化石燃料を使う限りCO2は排出されるのである。その意味で、全産業を対象にして、脱化石化を考えたグリーンエネルギー政策を最優先で進めなければならない。国が検討すべきは、CO2削減に向けたエネルギー戦略であって、自動車の電動化ではない。
グリーン燃料に転換すれば全て残る
化石燃料を使うエンジン車やジェット旅客機、船舶、火力発電所などがなくなることは否定しない。だが、その一方で、脱化石燃料(グリーン燃料)に転換すれば全て残るということだ。
これまで1次エネルギーの大半(化石燃料)を輸入に頼ってきた日本は、それらがグリーン燃料に転換されても、輸入という構図は変わらない。輸入に頼らざるを得ないのだ。自動車においても、現在の再生可能エネルギーを使った電気をEVに、その余剰分のエネルギーを使って製造した水素をFCVに活用してCO2削減を進める方法に限定すべきではない。各国政府は多様なグリーン燃料への転換と、それらの製造・供給量確保への道筋を明確にすべきだ。それを踏まえた上で、メーカーは開発戦略を立てることになる。具体的には、予想されるグリーン燃料とグリーン電力の供給量を踏まえながら、顧客ニーズへの対応とカーボンニュートラルを両立させるために、エンジン車やハイブリッド車(HEV)を含めた電動車の全方位開発が求められるのである。
各国、地域によってエネルギーや燃料事情は異なると予想される。政府や全ての産業、エネルギー資本、電力セクターが一体となって進めなければ、大幅なCO2削減と経済成長の両立を図ることはできない。