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 日本は7年にもわたる第2次安倍晋三政権下で、エネルギー政策の検討はほとんど進んでいない。2018年の「第5次エネルギー基本計画」は、2014年の基本計画に対してほとんど手が加わっていないお粗末なものである。国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP)や気候行動サミットでも、二酸化炭素(CO2)削減に後ろ向きな国と非難され、揚げ句の果てには不名誉な化石賞をもらうという状況にあった。

 これらの会合に出席した小泉進次郎環境大臣は、真剣に進めないと主要7カ国(G7)から追い出されるという危機感をようやく抱いたのか、経済産業省のお粗末なエネルギー政策を何とかしてG7各国の表明に近いものにしたいと考え始めたようだ。そうした中、2020年末に、菅義偉首相が唐突に2050年に「全体でCO2排出量ゼロを目指す」と表明した。「全体で」というところが引っかかる。植林なども全て含むのである。

図●パリ協定と国連気候行動サミット
図●パリ協定と国連気候行動サミット
(作成:筆者)
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 日本はCO2排出量で世界ワースト5だが、ワースト1の中国に比べれば1/10 程度と少ない。日本が頑張っても中国およびワースト2の米国が頑張らなければ、世界のCO2の大幅削減は無理だ。よって、日本はまだまだ大丈夫だとの甘えが日本政府の根底にはあった。そこに、頼りにしていた原発を稼働できず、再生可能エネルギー発電もさまざまな事情で拡大できないことが重なって、これまでは前向きなCO2削減を図ってこなかった。違う言い方をすれば、「難しいことは先送りにする」という日本政府の体質が、エネルギー政策においても欧州などに比べて遅れる要因となっているのだ。

日本がカーボンニュートラルを打ち出した背景

 2019年9月の気候行動サミットにおいて、国連は「2050年にCO2ゼロ、ここ10年でCO2を45%下げる必要がある」と表明した。これは産業革命以降の平均気温の上昇を1.5℃以下に抑えることを必達とするもので、に示すようにパリ協定(国連気候変動枠組条約第21回締約国会議;COP21)よりもさらに厳しい(既に現在は1℃に達している)。

 達成できなければ、人間の手では制御できない気候危機の連鎖が始まる可能性がある。大半の国はこれにコミットし、ドイツや英国などが具体的な案を提示したにもかかわらず、先進国でコミットしていなかった日本と米国は、具体策を持たないため登壇の機会さえ与えられなかった(小泉環境大臣は情けない思いをしただろう)。

 ところが、2020年末、米国大統領がドナルド・トランプ氏からジョー・バイデン氏に代わるや否や米国はパリ協定に早々に復帰し、CO2削減に関して各国をリードしていくと表明した。これに焦った菅首相が、2050年カーボンニュートラル(温暖化ガスの排出量実質ゼロ)を目指すという表明に至ったのであろう。理由は容易に想像がつく。日本が今、2050年CO2ゼロを表明しないとバイデン大統領に先を越されてG7で最下位になるからというものだ。

 その後、矢継ぎ早に2035年までにエンジン車廃止と表明することになったが、これも欧州各国や米国カリフォルニア州、中国の後追いであることは否めない。何かを表明する以上はそれなりに具体的な理由と道筋が必要だが、経産省からは何も出てこないどころか、事前に日本自動車工業会(JAMA)とも調整していないというお粗末さである。あるEVメーカーの入れ知恵を疑う報道まであったほどだ。

 菅首相の2050年カーボンニュートラルや2035年エンジン車廃止表明は、焦った揚げ句の果てのパフォーマンスと言われても仕方がないだろう。