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1MW級の風力発電が2280基、琵琶湖の6割の面積が必要

 続いて、2030年におけるEV用電力の供給量の試算結果について解説しよう。

 日本の2018年における総発電量は約1兆kWhだ。1次エネルギーの46%を占める電力需要が今後増えないとして、現在動きのある分散化や地産地消などを進めても、日本の貧弱かつ脆弱な電力網の中で、2030年に50%を超える再生可能エネルギー化は、極めてハードルが高い。にもかかわらず、こうした状況でEVが増加すればグリーン電力の供給が追加で必要となる。

 試算の前提として、2030年のEV比率を新車の10%とし(筆者のシナリオでは3%だが)、2021年から販売が単調に増加してEV保有車は250万台(全体の3.5%シェア)、年間走行距離が1万2000km、電費は6km/kWhとした。ここから、年間の電力総使用量は50億kWhと算出できる。これは、1MW級の風力発電設備(設備使用率25%、年間発電量219万kWh)の2280基分に相当する。設置面積は琵琶湖の60%を占め、新たな送電線網の追加設置が必要だ。

 現在供給されている電力のグリーン化さえもおぼつかない中で、EV用に新たなグリーン電力を製造できるとは考えにくい。EV購入を希望するユーザーは、小型の低速EV(LSEV:Low Speed EV)のような「電費」の良い超小型車を、太陽電池パネルとセットで購入して「自産自消」するしかないだろう。EVが大型化すれば、電池搭載量が増して質量も増える。その結果、電費が悪化するので、さらに電池を搭載し電気消費量が増えるという、負のスパイラルに陥るということだ。

グリーン燃料を含めた全方位エネルギー政策が必要

 これまで自動車の電動化〔主にEV、プラグインハイブリッド(PHEV)〕によるCO2削減ばかりがフォーカスされてきたが、菅義偉首相の2050年カーボンニュートラル(温暖化ガスの排出量実質ゼロ)の表明以降、製鉄や火力発電、エンジン車、航空機、船舶などでも、化石燃料からグリーン燃料への転換に関する報道が過熱している。実は、これらの検討は数年前から始まっているにもかかわらず、積極的に取り上げられてこなかった。関連企業の努力にもかかわらず、政府やエネルギー資本、電力セクターにおける危機意識が足りない。言い換えれば「CO2削減につながる、将来を見据えたエネルギー戦略が欠如していた」ということだ。

 2030年に向け、従来の石油系〔ナフサ、ジェット燃料、灯油、軽油、ガソリン、液化石油ガス(LPG)、天然ガス、石炭(コークス)〕消費量の45%程度〔厳密にはH/C(水素とカーボンのモル比)の考慮が必要〕を、カーボンニュートラル燃料やカーボンフリー燃料などのグリーン燃料に転換することが待ったなしの状況となっていることに、ようやく気づいたのではないか。

 EV用のグリーン電力供給が期待できない上、LCAでのCO2でHEVに対する優位性が出せない中、自動車のEV化に傾注するのは正しい政策ではないことを理解できたと思う。重要なのは、電気の再生可能エネルギー化だけではなく、グリーン燃料の製造と調達を含めた全方位でのエネルギー政策である。

 トヨタ自動車などはかねて、エネルギーの多様化を前提に全方位での車両開発を進めている。にもかかわらず、「いまだに日本のメーカーはEV化が遅れているが大丈夫か」「トヨタはようやくEV化に本腰を入れ始めた」「レースに参戦、水素エンジンも可能性が」などの場当たり的な論評が多い。ちなみに、トヨタ自動車が水素エンジン車でレースに参戦した理由について筆者は、従来のエンジンの改造と水素タンクの設置で水素エンジン車にすればカーボンフリーだということを、理解力のない首相と経産省に示すためだと筆者は推測している。あくまでもデモンストレーションであって、本気で考えているとは思わない。保有車のCO2削減を考えれば、水素ではなくバイオ燃料、e-Fuelが現実的だ。

図8●トヨタ自動車が開発する水素エンジン
図8●トヨタ自動車が開発する水素エンジン
水素エンジンを積んだレーシングカーが24時間耐久レースを走破した。(写真:トヨタ自動車)
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 国家戦略として、あらゆる産業における全方位のグリーンエネルギー政策を立案し、実行できなければ、日本に限らず中国、欧米なども、持続可能な経済成長と生活の安定は今後保証されなくなる。また、気候危機による自然災害の多発と、今後頻繁に発生すると予想されるパンデミックも、これらに拍車をかけることになる。現在、日本のみならず、中国、欧米で水素エネルギー転換への動きが活発化するが、グリーン燃料は水素だけではない。バイオ燃料、水素から製造されるe-Fuelやアンモニア、合成メタンなどの大量生産法まで含め、早急に検討することが必要だ。