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 自動車から航空機、船舶、産業機械、農耕機械、家電製品まで、いずれも燃料やエネルギーがなければただの“鉄くず”であり、これらを稼働するために使用してきた化石燃料が二酸化炭素(CO2)の発生源である。そのため、くどいようだがCO2削減を考える上で最も重要なことは、2030年における1次エネルギーの消費量を運輸や産業機械の効率化、再生可能電力の拡大分を含めて削減し、45%に足りない部分を化石燃料からグリーン燃料に転換していくことだ()。2050年はその延長上で全てグリーン燃料とグリーン電力にしなければならない。

図●開発が進むグリーン燃料
図●開発が進むグリーン燃料
左がユーグレナが開発するバイオ燃料、右がドイツAudi(アウディ)が開発する液体合成燃料。(写真:左がユーグレナ、右がAudi)
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 エンジン車はCO2を多く排出するから廃止というのであれば、同じ理屈で石炭火力発電や天然ガス発電、コークスを使う製鉄所なども全て廃止ということになる。ジェット旅客機や大型船舶を電気で動かすつもりか? ということにもなる。大局からものを見る観点が欠如していると言わざるを得ない。

 菅義偉首相は火力発電において、石炭からアンモニアへの転換に期待しているようだが、それだけではない。ガソリンエンジン車もディーゼルエンジン車もハイブリッド車(HEV)もジェット旅客機も大型船舶も、全てバイオ燃料(バイオFuel)あるいは合成液体燃料(e-Fuel)などを使えばカーボンニュートラル(温暖化ガスの排出量実質ゼロ)を実現できることを勉強してもらいたいものだ。

確固たるエネルギー政策に沿って産業は技術戦略を立案すべし

 運輸や産業、電力製造でいかに燃料やエネルギーを脱化石化するか、その道筋をどうするかが最も重要だ。これこそ政府が考えるべきエネルギー政策であり、それに沿って自動車を含むあらゆる産業が技術戦略を立案すればよい。

 自動車メーカーであれば、適正なCO2基準への対応や、購入可能な価格などの顧客のニーズ、技術の進度を考えてパワートレーンを決定すればよいのである。もちろん、国の立案するエネルギー政策に対しては、あらぬ方向にそれないように日本経済団体連合会(経団連)や日本自動車工業会(JAMA)などが適宜具申する必要はある。

 加えて、エネルギー政策で考えなければならない大切なことに、グリーン燃料やグリーン電力の製造量(供給量)を必要な分用意できるかという問題がある。不足分は、海外からの輸入も視野に入れて政策を立案しなければならない。

 に1次エネルギーの脱化石化と、それらを使う対象を整理した。これまで大半が化石燃料であった1次エネルギーは、バイオ燃料やグリーン水素、水素から製造するe-Fuelやアンモニア、合成メタンなどのグリーン燃料に転換することが必要だ。

表●グリーンエネルギーと消費対象
表●グリーンエネルギーと消費対象
HEV:ハイブリッド車、PHEV:プラグインHEV、FCV:燃料電池車、FC:燃料電池、LPG:液化石油ガス、CNG:圧縮天然ガス、LNG:液化天然ガス。(作成:筆者)
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 これらの燃料は、既存の装置や製品、インフラがそのまま使える利点がある。1次エネルギーの全てを再生可能電力でまかなう(誰もそのようなことは考えていないと思うが)というのは、発電所の設置や電力網の整備について考え、さらに電力は輸入できないことなどを踏まえると、実現は困難に近い。一方、水素に関しても、再生可能電力の余剰分で製造することを前提とする限り、製造効率は低く(コストアップにつながる)、これまで化石燃料に頼ってきた全ての産業の需要を満足することは不可能である。そのため、新たな専用プラントを検討する必要がある(詳細は後述)。