第5の警鐘で述べたように、グリーン燃料化は再生可能エネルギーでどれくらい多くの水素を効率的かつ安価(目標は天然ガス並みの200円/kg)に製造するかが鍵となる。水素を原料とした合成液体燃料(e-Fuel)やアンモニア、合成メタンの製造効率の向上と、コスト低減が重要となる。
図1は、大阪ガスが先日公表した、メタネーションによる合成メタン製造における効率向上技術の一例である。再生可能電力により、固体酸化物型水電解(SOEC)共電解装置を使って水の電気分解と、二酸化炭素(CO2)の一酸化炭素(CO)と酸素(O2)への分離を同時に行う。これは吸熱反応である。ここでできた水素とCOからメタンを製造する反応は放熱反応である。メタン製造時の熱エネルギーを水素とCOの製造時のエネルギーとして活用するヒートマネジメントにより、効率を90%近くまで引き上げられる可能性がある。これは、水の電気分解による水素の製造効率である70~80%よりも高い。
CO2は分子結合力が高いため分離に多くのエネルギーを必要とするが、このプラントでは捨てていた熱エネルギーをうまく活用するという観点で革新的だ。この手法は、e-Fuelやアンモニアの製造などにも応用でき、製造量の拡大とコスト削減につながる。
電気はつくった後、送電網で各所に供給するというのが既成事実となっている。そのため、再生可能エネルギーによる新規発電所も、送電網との連結を前提としている。ところがこの考え方が、日本が今後、電力のエネルギーミックスで50%の再生可能エネルギーを目指す際の障害となり得る。
日本では太陽電池パネルを設置できる場所が限られる上に、業者の違法な設置などにより、地方自治体から拒絶される問題も起こっている。風力発電に関しても、規制緩和が進むことである程度の増設はできるが、どこにでも設置できるわけではなく、設備使用率を考慮すると都心部から離れた不便な場所に設置しなければならない。すると、送電線の設置に関しても地域住民との交渉が必要となり、時間と費用がかかる。加えて、日本ではようやく2020年に発送電分離したとはいえ、大元は電力会社が握っており、新規参入の壁はいまだに高い。
これらが再生可能エネルギー比率を高める上での課題であり、余剰分でつくる水素の製造量も限られることになる。
再生可能エネルギーの全てをグリーン燃料の製造に使う「逆転の発想」
そこで、「逆転の発想」が必要だ。「再生可能エネルギー(小規模水力や、風力、太陽光など)で製造した電気の全てを、水素やe-Fuel、合成メタン、アンモニアの製造に使う」という考えである。こうすれば電力会社とは完全に分離することができ、関連企業が合同で運用すれば、新たなビジネスチャンスにもなる。
具体的には、再生可能電力から水素製造、アンモニア/e-Fuel/合成メタン製造までを一体化させた「グリーン燃料製造用プラント」を適地に建設するアイデアだ。先の大阪ガスの図1もその一例である。設備が壊れない範囲で昼夜に関係なく再生可能エネルギーを最大限に電力に変換するため、設備の使用率が向上する。加えて、プラント内のヒートマネジメントを積極的に行うことで水素やアンモニア、e-Fuel、合成メタンの生産効率が高まり、製造コストの削減も可能だ。
送電線が不要になる分のコストも下がる他、設置場所の自由度も増える。そのため、へき地での設置も可能となり、地域住民との折衝や環境アセスメントに関するハードルも下がる。輸送は既存のタンクローリーが使え、道路環境のみ整備すればよい。これらを国内だけでなく、海外にも幅広く展開し、大量のグリーン燃料を輸入するプロジェクトを推進すればよいのだ。
小規模水力などで発電して水素を製造する実証実験は、2018年から北海道で東芝エネルギーシステムズや岩谷産業などが進めてきたが、水素を原料としたグリーン燃料の製造までは考えられていない。
福島の水素エネルギー研究フィールドでは、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)や東芝エネルギーシステムズ、東北電力、岩谷産業などが2020年3月から20MWの太陽光発電による水素製造の稼働を開始したが、従来の送電網との連結を前提としている(図2)。連結が比較的容易にできる場所はこれでも構わないが、先ほども述べた通り、残されたフィールド(設置場所)の選択肢はそう多くはない。また、これもグリーン燃料の製造までは考えられていない。
2030年までに10年も残されていない現状を考えると、水素だけではなく、水素を原料とするグリーン燃料製造の実証実験も必要だ。環境省や経済産業省はもっと広く識者から意見を吸い上げ、適正な予算をつける必要がある。従来の公募方式では間に合わないのだ。