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 銀行口座を介さずデジタルマネーなどで給与を受け取れる「給与デジタル払い」解禁の議論が停滞している。外国人労働者を対象とした金融包摂やキャッシュレス推進を目的として政府肝いりで始まった議論だが、「労働者保護など安全性が不十分」などの反対意見をまとめきれず、解禁に向けた議論は宙に浮いたままだ。

 給与デジタル払い解禁のインパクトとは何か。導入するメリットやデメリットはどこにあるのか、そして解禁の行方はどうなるか。まずは議論の「現在地」から見ていこう。

 2021年4月19日の労働政策審議会で厚生労働省は「資金移動業者の口座へ賃金支払を行う場合の制度設計案(骨子)」を提出。規制改革へ大きく動くかと思いきや議論は現在平行線をたどっている。「給与デジタル払い」とは、企業が従業員に対して支払う給与をPayPayやLINE Payのような資金移動業者のアカウントに直接振り込むことだ。日本で働く外国人の支援やキャッシュレス推進を目的に規制改革の議論が始まってから4年が経つが、いまだ給与デジタル払い解禁への先行きは不透明だ。

 現在の労働基準法では給与は原則手渡し、例外として銀行口座や証券口座への給与振り込みを認めている。給与デジタル払いとはこの「例外」に資金移動業者を追加することで、現金を介さず直接デジタルマネーで給与を受け取れるようにする制度だ。資金移動業者とは銀行などの金融機関以外に個人間や個人と企業の間の送金サービスを営む登録事業者を指す。

表 給与デジタル払いに関する主な検討経緯
時期検討内容
2017年12月国家戦略特区ワーキンググループのヒアリングで、東京都とWORK JAPANが銀行口座の開設が難しい外国人労働者向けに「ペイロール・カード口座に賃金支払を可能とする規制の緩和」を提案
2018年6月国家戦略特別区域諮問会議でドレミングがデジタルマネーによる給与振込の実証実験に向けた規制緩和を提案。厚生労働副大臣が「労働者保護に留意しながら検討したい」と発言
2019年6月内閣が給与デジタル払いについて「労使団体と協議の上、2019年度のできるだけ早期に制度化を図る」と閣議決定
12月国家戦略特別区域諮問会議で、「労使団体と協議の上、2020年度早期の制度化を図る」と決定
2020年3月規制改革推進会議の「投資等ワーキング・グループ」で検討
4月公正取引委員会がキャッシュレス決済に関する実態調査報告書を公開。給与デジタル払いに一定のニーズがあることを示す
7月2020年度のできるだけ早期の制度化を図ると閣議決定
8月厚生労働省の労働政策審議会で検討開始
2021年1月1~4月にかけて毎月1回、労働政策審議会で検討
4月労働政策審議会で厚生労働省が、資金移動業者の口座へ賃金支払いを行う場合の制度設計案の骨子を提示

 給与デジタル払いに関する議論は、外国人労働者の受け入れ態勢を見据えたペイロール導入検討から始まった。米国などでは銀行口座を持たない人に対する給与支払いの受け皿として「ペイロール・カード」と呼ばれるプリペイドカードにお金を振り込む仕組みがある。来日して働く外国人は、日本に住み始めてすぐに銀行口座を開設できないケースが多い。

 その対応策として2017年12月の国家戦略特区ワーキンググループで、東京都と日本在住の外国人向けの求人情報サービスを展開するWORK JAPAN(ワークジャパン)は、銀行口座の開設が困難な外国人に向けて「ペイロール・カード」口座への賃金支払いを可能にするよう提案した。