全3284文字
PR

 「最大の焦点は労働者保護の仕組みだ」。大和総研金融調査部の長内智氏は、給与デジタル払いの議論のポイントについてこう指摘する。2019年の閣議決定を経て、資金移動業者や金融システムを担うベンダーは新たなビジネスチャンスに期待をかけ動き出した。しかし議論の先行きは不透明。解禁に向けては課題が山積みだ。

給与デジタル払い解禁の議論、落としどころは見つかるのか
給与デジタル払い解禁の議論、落としどころは見つかるのか
(出所:123RF)
[画像のクリックで拡大表示]

銀行と資金移動業、資金保全のレベルに差

 関係者が口をそろえて指摘するのは、労働者を保護する仕組みの整備について。具体的には事業者が経営破綻した際に資金を払い戻す「資金保全」、サイバー攻撃などで資金が何者かに不正に引き出されてしまった際の「不正利用の補償」、給与の振り込みや決済のデータなどを保護する「セキュリティー」である。

 現時点での給与デジタル払いの解禁に反対の姿勢を示す日本労働組合総連合会(連合)の仁平章総合政策推進局総合局長は「資金移動業者を選択肢に加えるのであれば、銀行と同等の安全性と補償などの仕組みが絶対に必要だ」と危機感を示す。

 過去の労働政策審議会でも「安全性、保全、補償は少なくとも銀行口座と同等でなければならない」という意見が出ている。給与デジタル払いの解禁に向けては、少なくともこれら3点についての落としどころを見いだす必要がある。

 資金移動業者は個人間、あるいは企業と個人の間の為替取引(送金サービス)を目的とする業種だ。1回の送金額上限は100万円以下。資金移動業者の区分は登録制と認可制があり、現在の約80の資金移動業者は全て登録制に該当する。2021年5月施行の改正資金決済法によって、高額類型として認可されれば1件につき100万円を超える送金ができるようになったが、現時点で高額類型の資金移動業者はない。

 資金移動業者における資金保全、補償、セキュリティーの仕組みはそれぞれどうなっているのか。まず資金保全については、資金決済法に基づく「供託」の仕組みを使うことが多い。資金移動業者は経営破綻に備え、利用者から預かった資金と同額以上の額を供託所(法務局)などに提出し、管理を委ねる。経営破綻した際には供託した資金を基に利用者に残高を返金する。しかし、経営破綻に伴う清算手続きなどを経てから利用者へ返金する手続きに入るため、お金が利用者の手元に戻るまでに半年ほどかかるとされる。

 不正利用された際の補償については、日本資金決済業協会の規定に基づいて対応する。しかし同規定では、不正利用が発生した際の補償は各資金移動業者の約款に基づいた補償をするよう定めている。つまり、法律などの業界共通の補償ルールはなく、事業者各社にゆだねられているのが実態だ。

銀行と資金移動業の比較
銀行と資金移動業の比較
※現状はほとんどの事業者が登録制に該当 (出所:労働政策審議会の資料を基に日経クロステック作成)
[画像のクリックで拡大表示]

「ドコモ口座問題」でセキュリティーに関心

 セキュリティーについて資金移動業者各社は、スマホとオンラインを前提に本人確認の仕組みを設けている。パスワード、指紋などの生体、ICカードなどのうち2つの方式を組み合わせる「二要素認証」、免許証など顔写真付きの身分証明書と顔を動かした様子を照合する「eKYC(電子的本人認証)」を取り入れ、本人確認の仕組みを徹底する。