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デジタルビジネスをけん引するITだけでDXは成り立たない。損害保険ジャパンが挑んだのは全社規模のDXを後押しする基幹システムの刷新だ。2000億円を投じて複雑怪奇なシステムをシンプルにし、機動力を高める工夫を尽くした。

 「先を見通せないVUCA(変動性・不確実性・複雑性・曖昧性、ブーカ)の時代を生き抜くために一からつくり直した」。損害保険ジャパンのITを統括する浦川伸一取締役専務執行役員は、2021年3月に稼働させた新基幹システムの意義をこう強調する。

図 損保ジャパンが基幹システムの全面刷新に踏み切った背景課題
図 損保ジャパンが基幹システムの全面刷新に踏み切った背景課題
デジタルトランスフォーメーションの「崖」に直面(写真:Getty Images)
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 少子高齢化で人口減が進むなか、自動車保険販売に直接影響する自動車保有台数も頭打ちになるなど、成熟と縮小の一途をたどる日本の損保市場。新型コロナ禍や激甚災害の増大を踏まえたニューノーマル(新常態)時代が到来し、自動運転やAI(人工知能)などの技術革新も相まって、既存のビジネスモデルは時を追うごとにきしみを増す。対応を誤ればメガ損保ですら生き残れない可能性がある──。そうした「不都合」な未来に対する閉塞感が今、損保業界全体を覆っている。

 SOMPOホールディングス(HD)の中核子会社で、2014年9月に旧損保ジャパンと旧日本興亜損害保険が合併して発足した損保ジャパン。閉塞感を破り成長を持続させようと、デジタルの力を借り攻勢に出た。

 目玉の1つが、実に34年ぶりとなる基幹システムの全面再構築だ。柔軟性や拡張性を確保し、商品開発スピードの向上や外部システムとの連携強化を目指した新基幹システム「SOMPO-MIRAI」を本稼働させた。

硬直的な基幹システムが足かせに

 SOMPO-MIRAIは保険商品の契約計上や保険金の収納・精算、支払い、事故の管理など、損保ジャパンが手掛ける保険業務全般を支援する。これまでメインフレーム上で稼働していたCOBOLアプリケーションを、Linuxサーバーなどオープンシステムで動くJavaアプリケーションに置き換えた。

図 損害保険ジャパンが開発した新基幹システム「SOMPO-MIRAI」の概要
図 損害保険ジャパンが開発した新基幹システム「SOMPO-MIRAI」の概要
モノリシックからマイクロサービスに全面刷新(出所:損害保険ジャパンなどへの取材を基に日経コンピュータ作成)
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 投資額は非開示だが総額2000億円規模とされる。ピーク時にはシステム側だけで2000人超の技術者が参画し、構想の着手から稼働までは8年がかり。SOMPO-MIRAIを構築する「未来革新プロジェクト」は、みずほフィナンシャルグループが8年と約4500億円を投じて2019年に全面稼働させた勘定系システム「MINORI」などに連なる、国内屈指の巨大プロジェクトだ。

 これほど大がかりな基幹刷新に、損保ジャパンを突き動かしたものは何か。端的に言えば「デジタルトランスフォーメーション(DX)の崖」への危機感だ。この崖を向こう岸に飛び越えない限り、足かせを何とかしない限り、VUCAの時代を生き抜けない。

 同社にとってのDXの崖は、老朽化した従来の基幹システムがもたらした。1980年代から稼働する従来システムは、改修を繰り返したために機能の重複やブラックボックス化が進み、保守性が次第に低下していった。

 2014年に旧損保ジャパンと旧日本興亜が合併した後、2社の基幹システムが併存していたのも悩みの種だった。旧損保ジャパンのシステムをベースに統合したが、旧日本興亜の既存契約や一部の継続商品を管理するために同社の旧システムも運用していた。

 肥大化し複雑化したシステムを使い続けた結果、新商品の投入や商品改定に迅速に対応しにくいシステムになっていた。例えば商品に必要な機能を開発するにも、その前段階に欠かせない影響調査にどうしても時間がかかってしまう。加えて利用部門が企画する商品の設計が複雑なために、開発に余分な工数がかかるケースもあった。

 複雑化したシステムを使い続けてきたことで現場の業務フローもどんどん煩雑になった。結果、業務部門の事務作業量は増えた。老朽化したシステムの負の影響が社内の随所に現れ、改革の足かせとなっていた。