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 パノラマティクス(旧ライゾマティクス・アーキテクチャー)を主宰する齋藤精一氏は、アートやイベントなど様々な分野のクリエイティブディレクションを手掛け、時代をリードしてきた。デザイナーやクリエイターの降板・交代劇なども目立った今回の国家的イベントを、どう見てきたのか。文化とレガシーという観点から聞いた。

五輪で「文化」は大切にされたか?

東京五輪・パラリンピック(オリパラ)に関連し、齋藤さんは当初から様々な場面でスポーツと文化を重ね合わせる発言を続けていた。今の思いは?

齋藤精一氏。1975年神奈川県生まれ。06年ライゾマティクス(現・アブストラクトエンジン)を設立。16年から社内の3部門の1つ「アーキテクチャー部門」を率い、20年の組織変更でパノラマティクスと改める。18~21年グッドデザイン賞審査委員副委員長。20年ドバイ万博日本館クリエイティブ・アドバイザー、25年大阪・関西万博People’s Living Labクリエイター(写真:澤田 聖司)
齋藤精一氏。1975年神奈川県生まれ。06年ライゾマティクス(現・アブストラクトエンジン)を設立。16年から社内の3部門の1つ「アーキテクチャー部門」を率い、20年の組織変更でパノラマティクスと改める。18~21年グッドデザイン賞審査委員副委員長。20年ドバイ万博日本館クリエイティブ・アドバイザー、25年大阪・関西万博People’s Living Labクリエイター(写真:澤田 聖司)
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 「たくさんの問題が起こり、僕らの次の世代のクリエイティブに携わる人たちが、オリパラのような国家的なイベントに興味を失ってしまったんじゃないか。同時に、公共の仕事に関わりたくないと感じたんじゃないか。たぶん、それが今回のオリパラが残す“負の遺産”だろうと思ってはいる」

2013年に東京大会の開催が決まったとき、齋藤さんはご自身や会社として何らかの形で貢献できるのではないかと感じていた?

 「1964年の東京五輪、70年の大阪万博に対し、憧れのようなものを持つ世代だ。僕自身は2015年のミラノ万博で日本館のクリエイティブディレクターを担当し、同館は展示デザイン部門の金賞を受賞した。会社としては『リオ2016大会閉会式東京2020フラッグハンドオーバーセレモニー』に演出面で協力し、これも評価をいただいて手応えを感じていた」

 「その過程で、日本らしいクリエイティブの在り方が見えてきたところだった。オリパラにも非常に期待していたのは確かだ。国の規模でしかできない試みもたくさんあるので、こうしたプロジェクトに関心が途絶えたわけではない。日本でクリエイティブに携わっている以上、役に立ちたい気持ちは変わらない」

「LIVE PERFORMANCE THEATER(ライブパフォーマンスシアター)」。 15年5~10月開催の「2015年ミラノ国際博覧会(ミラノ万博)」日本館における展示ゾーンのメイン作品。レストランスタイルのシアターで、観客は各テーブルのディスプレーを箸(はし)で操作し、体感する。同万博の展示デザイン部門で「金賞」を受賞した。齋藤氏はクリエイティブディレクションを担当。発注者:JETRO、総合プロデュース:電通、空間制作:乃村工芸社+ 丹青社(写真:パノラマティクス)
「LIVE PERFORMANCE THEATER(ライブパフォーマンスシアター)」。 15年5~10月開催の「2015年ミラノ国際博覧会(ミラノ万博)」日本館における展示ゾーンのメイン作品。レストランスタイルのシアターで、観客は各テーブルのディスプレーを箸(はし)で操作し、体感する。同万博の展示デザイン部門で「金賞」を受賞した。齋藤氏はクリエイティブディレクションを担当。発注者:JETRO、総合プロデュース:電通、空間制作:乃村工芸社+ 丹青社(写真:パノラマティクス)
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「GYOEN NIGHT ART WALK 新宿御苑 夜歩(よあるき)」。18年10月開催。東京・新宿御苑は通常、夜間は閉鎖されている。これを開放し、スポーツをテーマとする大規模イベントを実施。東京五輪・パラリンピック時の公共空間活用に向けた試みだった。アブストラクトエンジン(当時ライゾマティクス)が実行委員会に参画し、齋藤氏が主宰する建築部門のパノラマティクス(同ライゾマティクス・アーキテクチャー)が空間演出を担当。主催:新宿御苑・OPEN PARK プロジェクト実行委員会(写真:カルチャー・ヴィジョン・ジャパン/ライゾマティクス) ※本件の「ライゾマティクス」はいずれも旧組織時の株式会社の名称
「GYOEN NIGHT ART WALK 新宿御苑 夜歩(よあるき)」。18年10月開催。東京・新宿御苑は通常、夜間は閉鎖されている。これを開放し、スポーツをテーマとする大規模イベントを実施。東京五輪・パラリンピック時の公共空間活用に向けた試みだった。アブストラクトエンジン(当時ライゾマティクス)が実行委員会に参画し、齋藤氏が主宰する建築部門のパノラマティクス(同ライゾマティクス・アーキテクチャー)が空間演出を担当。主催:新宿御苑・OPEN PARK プロジェクト実行委員会(写真:カルチャー・ヴィジョン・ジャパン/ライゾマティクス) ※本件の「ライゾマティクス」はいずれも旧組織時の株式会社の名称
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インスタレーション「Power of Scale(パワー・オブ・スケール)」。18年4~9月開催の六本木ヒルズ・森美術館15周年記念展「建築の日本展:その遺伝子のもたらすもの」に出展。映像とレーザーファイバーを用い、様々な建築空間のスケールを実寸で体験可能にした(写真:日経クロステック)
インスタレーション「Power of Scale(パワー・オブ・スケール)」。18年4~9月開催の六本木ヒルズ・森美術館15周年記念展「建築の日本展:その遺伝子のもたらすもの」に出展。映像とレーザーファイバーを用い、様々な建築空間のスケールを実寸で体験可能にした(写真:日経クロステック)
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 「様々な仕事をする中で、日本の特に公共には、まだ“文化後進国”の側面が残っていると感じることがある。建設プロジェクトなどと比較すると、決して予算も潤沢ではない。文化が経済を動かしているわけではないという見方なのかもしれないが、そろそろ脱してほしいと感じる部分ではある」

「五輪レガシー」をどう見るか?

文化が重んじられない現実がある一方で、都心には「五輪レガシー」として複数のスポーツ施設が残される。その活用に関して先行きは厳しいと感じるか?

 「オリパラのKPI(重要業績評価指標)が何なのか、その議論はなされていないように思う。選手村がマンションになるのをレガシーとして評価できるかというと疑問は残る。新たなスポーツ施設に関しては、特に都心部を中心に、公共の施設だからこそ可能となる運営管理の路線を見いだしてほしい」

 「というのは、年間400以上のイベントが行われるマジソンスクエアガーデンの例がよく引き合いに出されるが、絶対に無理な目標だ。プロジェクションマッピングに使いたいと相談を受けたりもするが、それで日数が埋まるものではない。だから僕は最近は開き直り、スポーツ施設はスポーツをするために使ってくださいと運営する方々には言っている。他のイベントをいくら企画しても気休めにしかならない」

 「それはイコール、東京都や国として真剣にスポーツ振興に取り組むという話になる。今回の東京大会で新たに採用された競技や復活した競技がある。スポーツ立国をうたうつもりなら、それらにも目を向け、行政が責任を持って今回の競技施設をスポーツのためのレガシーとして生かしていってほしい」

 「もちろん民間と連携する形で構わないが、単純に資産や運営権を売り払っただけで終わったと位置づけられるのは本意でないはずだ。経済をグリップしながら、公共性を発揮してほしい。PFI(民間資金を活用した社会資本整備)をもう一歩押し進めたような方法を導き出す必要があるのかもしれない」