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 2010年代の都心部の開発は五輪を理由にスピードを上げ過ぎた結果、独自の魅力につながる“解像度”を高められずに進んだのではないか。五輪の動きから離れ、25年の大阪・関西万博のプロジェクトに携わる齋藤精一氏は、都市づくりのための実験に改めて挑みたいと考えている。

都市開発の視点は変わるのか?

齋藤さんがかねて指摘しているように、開発事業者が経済効果を重んじる結果なのか、エリアに関わらず都市開発の解答が横並びになったり、問題解決が一律のものになったりしがちな現実が続いていた。打つ手はあるか?

 「“解像度”が低い、という問題が様々なところにあった」

 「1つは、国家戦略特区などの枠組みで進める都市再生プロジェクトなどは、もう少し高い解像度で街を見る必要がある。そうすれば、個別最適化ではなく、より全体最適化の方向に近付けて都市の建物群を計画する方向になり得るはずだ。それもあって近年、“金太郎飴”のような都市開発から脱してほしいと主張してきた」

「202X URBAN VISIONARY(202X アーバン ビジョナリー)」プロジェクト。建築関係者や複数のデベロッパーの開発・エリアマネジメント担当者が意見を交換し、近未来のビジョンを描き出す。デベロッパー間で連携できた方が都市に独自性が出るはずだという齋藤氏の問題意識によってスタートした。写真は2019年8月の開催時の様子(写真:北山 宏一)
「202X URBAN VISIONARY(202X アーバン ビジョナリー)」プロジェクト。建築関係者や複数のデベロッパーの開発・エリアマネジメント担当者が意見を交換し、近未来のビジョンを描き出す。デベロッパー間で連携できた方が都市に独自性が出るはずだという齋藤氏の問題意識によってスタートした。写真は2019年8月の開催時の様子(写真:北山 宏一)
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 「遡ると2000年代からの都市再生特別措置法の下で、都市開発に自由競争の性格が持ち込まれた。結果的に、都市やエリアの中での役割分担がないも同然になってしまった。現在の東京を見る限り、やはりマスタープラン型で縛る良さを残しておく必要があったように感じている。行政主導とは限らず、民間の有志団体によるマスタープランを手掛かりにする手段などもあり得るはずだ」

 「もう1つは、僕らの生活に関わる部分の話で、こちらはコロナ禍をきっかけに解像度が上がった。行動したり思考したりする際の物理的な半径が小さくなった結果、多くの人が自分の身の丈でライフスタイルを問い直す機会になった。都市集中と地方分散という動きなども大ざっぱな二極化ではなく、両面の良さを併せ持つものが考えられるようになってきたと思う」

容積率以外の価値を見いだせるか?

都心部の業務地区の都市再生に関しては、「国際化」「ビジネスセンター」をうたい文句に、区よりも都、都よりも内閣府が開発許可の面で主導権を発揮する傾向があった。結果的に解像度を低くしている一因なのか?

 「国は個々の開発の枠組みに口を出すよりも、その枠組みをつくるための情報を集約し、地方自治体や事業者に提供する方向に力を入れるべきではないか。というのは、高い解像度で見るというのはデジタルの時代が一番得意とするところのはずで、そこを支援してほしい。逆に言うと、地方自治体は国任せにせず、自ら考える姿勢を失ってはならない」

 「だから、例えば僕がクリエイティブディレクターとして関わる国土交通省のPLATEAU(プラトー、3次元都市モデルのデータプラットフォーム)には、大賛成で協力している。こうした仕組みは、事業者の横連携のためにも機能する。提供されるデータベースを使い、地方自治体や民間が独自の判断で都市開発を主導できる方がいい。大味な都市開発を避ける手段になり得る」

国土交通省が進める3D都市モデル整備・活用・オープンデータ化のリーディングプロジェクト「PLATEAU(プラトー)」。齋藤氏が主宰するパノラマティクスが全体のクリエイティブディレクションを担当。また、アブストラクトエンジンのデザイン部門であるフロウプラトウがアートディレクションなどを担当(資料:日経クロステック)
国土交通省が進める3D都市モデル整備・活用・オープンデータ化のリーディングプロジェクト「PLATEAU(プラトー)」。齋藤氏が主宰するパノラマティクスが全体のクリエイティブディレクションを担当。また、アブストラクトエンジンのデザイン部門であるフロウプラトウがアートディレクションなどを担当(資料:日経クロステック)
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「PLATEAU(プラトー)」の表示画面。「建物の高さ」で色分けをしてみた様子(資料:日経クロステック)
「PLATEAU(プラトー)」の表示画面。「建物の高さ」で色分けをしてみた様子(資料:日経クロステック)
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経済効果という点では、都市開発のインセンティブが容積率の割り増しという「ボーナス」に偏り過ぎてきた問題がある。これは変わる気配があるか?

 「もちろん容積率以外に、税制優遇や融資など様々な支援がなされてきた。さらに価値観を揺さぶるためには、多様なステークホルダーが一緒になって総合的に判断するつくり方が望ましい。そうした複眼的な取り組みがないと、これまでと変わらずに坪単価でしか表現できない場所ばかりが生まれてしまう結果になる」

 「都市開発に関わる人が都市開発のことだけを考えていれば許される時代は終わっている。僕らはいつも元の社名の由来であるライゾーム(リゾーム=地下茎)に見立て、様々なジャンルを相関させる重要性を説いてきた。そうでなければ、どんなボーナスなら都市の魅力づくりに有効に働くのかをそもそも発想できないと思う」