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 「東京2020」大会の馬術競技実施に向けてリニューアルされた「馬事公苑」。大成建設との連合体で設計に携わった山下設計ソリューション本部の髙木賢治特任部長は、五輪招致段階から複数の競技会場の基本計画に関わっている。競馬場や馬術競技場のスペシャリストとして腕を振るう現在までの歩みを聞いた。

 「近年、競馬場の新設に関するコンサルタント依頼がアジア各国から舞い込むようになっている」

 こう語る髙木氏は、1997年に山下設計に入社。現在は、ソリューション本部に所属する。同本部は、プロジェクトの川上段階でクライアントニーズを把握し、最適解を提案する参謀的な役割を持つ。企業営業部門、プロジェクト推進部門、国際事業部門の3部門から構成されるが、髙木氏はどの部門にも属さず、本部直下の配属となっている。

 「プロジェクトに応じ、協働するメンバーを選んで業務に当たる。例えば、海外競馬場の場合は、国際事業部門と連携する」

「馬事公苑」の設計を担当した山下設計ソリューション本部の髙木賢治特任部長。1971年生まれ。97年東京芸術大学大学院美術研究科環境建築専攻修了後、山下設計入社。設計本部主管、デジタルデザイン室室長、監理部副部長などを経て、現在、ソリューション本部特任部長兼設計本部EPRプロジェクト室室長(写真:日経クロステック)
「馬事公苑」の設計を担当した山下設計ソリューション本部の髙木賢治特任部長。1971年生まれ。97年東京芸術大学大学院美術研究科環境建築専攻修了後、山下設計入社。設計本部主管、デジタルデザイン室室長、監理部副部長などを経て、現在、ソリューション本部特任部長兼設計本部EPRプロジェクト室室長(写真:日経クロステック)
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髙木氏が担当した「馬事公苑」(東京都世田谷区)のメインアリーナ部分。五輪・パラリンピックで馬術競技に使用。1期工事は2020年3月竣工(馬術競技会場仮設施設・オーバーレイ工事は21年6月竣工)。設計:山下設計、施工:大成建設。写真は五輪馬術競技時(21年7月25日撮影)(写真:日経クロステック)
髙木氏が担当した「馬事公苑」(東京都世田谷区)のメインアリーナ部分。五輪・パラリンピックで馬術競技に使用。1期工事は2020年3月竣工(馬術競技会場仮設施設・オーバーレイ工事は21年6月竣工)。設計:山下設計、施工:大成建設。写真は五輪馬術競技時(21年7月25日撮影)(写真:日経クロステック)
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 兼任で設計本部EPRプロジェクト室の室長としても活躍する。「EPRプロジェクト」とは、馬事公苑整備工事を意味する「Equestrian Park Renovation Project」の略称だ。

 EPRプロジェクト室は、日本中央競馬会(JRA)関連の業務を中心に活動。非常駐の社員や土木など協力事務所も含めると、最大で60人以上が設計に携わっていた時期もある。現在のコアメンバーは4人と少ないため、他部署の応援も受けながら業務を進めている。

 入社以降、2000年代にかけて、「立教女学院小・中学校・体育館」(1999年)、「晴海アイランド・トリトンスクエア」(晴海1丁目再開発、2001年)、「ジェイシティ東京」(神保町南部地区再開発、03年)、「普連土学園120周年記念館」(06年)などを担当した。

 「商業ゾーンを含む大規模再開発を2つ手掛けたのは良い経験になった。商業施設の設計は、前後して手掛けるようになった競馬場の設計とリンクする要素がある。競馬場は、スポーツ施設であると同時に商業施設的な側面もあるので、集客のための華やかさが必要とされる」

晴海アイランド・トリトンスクエア(東京都中央区)。01年竣工。日建設計・久米設計・山下設計JVが西地区の設計を手掛けている。山下設計は低層部の商業ゾーンと外構を主に担当(写真:三島 叡)
晴海アイランド・トリトンスクエア(東京都中央区)。01年竣工。日建設計・久米設計・山下設計JVが西地区の設計を手掛けている。山下設計は低層部の商業ゾーンと外構を主に担当(写真:三島 叡)
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JRAファシリティーズと共同で海外にアピール

 馬に関連する施設の設計には、入社して早々「新潟競馬場スタンドNiLS21」(01年)にチームの一員として関わる機会を得た。その後、12年に竣工した「中京競馬場スタンド ペガサス」では、主管という立場で実質的に設計業務を仕切る役割を務めた。

中京競馬場スタンド ペガサス(愛知県豊明市)。設計:山下設計、JRAファシリティーズ。12年1月竣工。スタンドには、全長37mのキャンティレバーの大屋根が載る(写真:山下設計)
中京競馬場スタンド ペガサス(愛知県豊明市)。設計:山下設計、JRAファシリティーズ。12年1月竣工。スタンドには、全長37mのキャンティレバーの大屋根が載る(写真:山下設計)
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中京競馬場スタンド ペガサスを上空より見る(写真:山下設計)
中京競馬場スタンド ペガサスを上空より見る(写真:山下設計)
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 その後、「武漢競馬場・トレーニングセンター」(中国・武漢市、12年)を皮切りに、海外から基本計画や設計業務を依頼されるようになる。

 香港資本系の会社が発注者となる武漢競馬場は今後、中国の国内で初めて賭け事としての競馬の運営許可を受けると想定されている施設だ(既に試行はされている)。山下設計はJRAの子会社であるJRAファシリティーズと共同で基本計画に取り組んだ。両者のタッグは現在まで続き、髙木氏は一連の担当を務めて馬に関連する施設のノウハウを蓄積してきた。

 「武漢競馬場の計画は中国の競馬関係者の間に知れ渡り、山下設計とJRAファシリティーズの名前が広まるきっかけとなった。武漢に関しては、現在も断続的にコンサルティング契約を継続している」

武漢競馬場・トレーニングセンター(中国・武漢市)。JRAファシリティーズと共同で、競馬場スタンド改修計画案(12年)、トレーニングセンターマスタープラン(12年)、競馬場馬場改造案(14年)、競馬場周辺開発計画企画案(14年)を作成。上は競馬場周辺開発企画案の鳥瞰イメージ(資料:山下設計)
武漢競馬場・トレーニングセンター(中国・武漢市)。JRAファシリティーズと共同で、競馬場スタンド改修計画案(12年)、トレーニングセンターマスタープラン(12年)、競馬場馬場改造案(14年)、競馬場周辺開発計画企画案(14年)を作成。上は競馬場周辺開発企画案の鳥瞰イメージ(資料:山下設計)
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武漢競馬場・トレーニングセンター。上はトレーニングセンターの鳥瞰イメージ(資料:山下設計)
武漢競馬場・トレーニングセンター。上はトレーニングセンターの鳥瞰イメージ(資料:山下設計)
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 海外事業は、「シリンホト馬術競馬場および競馬場」(13年)、「通遼(ツウリョウ)市競馬場」、「アルマトイ競馬場」と続く。特定のノウハウが必要とされるため、いずれも特命で受注した。ただし、プロジェクト環境は不安定で、通遼は13年の設計業務完了後に中断、アルマトイは15年の基本計画完了後に中断となっている。

 「中国では、競馬と馬術に関する展示会が毎年開催されている。山下設計は、JRAファシリティーズと共にブースを出している。また、隔年で開催される国際競馬会議にも共同出展してきた。海外の事業者からの依頼は、そうした営業活動が実った結果だと考えている」

シリンホト馬術競技場・競馬場(中国内モンゴル・シリンホト市)。中国馬業協会から業務を依頼された。14年のアジア競技大会を前に、馬術競技出場者を決める代表戦を開催する目的で整備した(写真:山下設計)
シリンホト馬術競技場・競馬場(中国内モンゴル・シリンホト市)。中国馬業協会から業務を依頼された。14年のアジア競技大会を前に、馬術競技出場者を決める代表戦を開催する目的で整備した(写真:山下設計)
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シリンホト馬術競技場・競馬場における競馬風景(写真:山下設計)
シリンホト馬術競技場・競馬場における競馬風景(写真:山下設計)
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通遼市競馬場(中国内モンゴル・通遼市)。設計業務完了後に中断している。上はマスタープランの鳥瞰イメージ(資料:山下設計)
通遼市競馬場(中国内モンゴル・通遼市)。設計業務完了後に中断している。上はマスタープランの鳥瞰イメージ(資料:山下設計)
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アルマトイ競馬場(カザフスタン・アルマトイ)。JRA経由で業務を依頼された。国内政変があり、実施設計前に中断している(資料:山下設計)
アルマトイ競馬場(カザフスタン・アルマトイ)。JRA経由で業務を依頼された。国内政変があり、実施設計前に中断している(資料:山下設計)
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 シリンホトの施設は、仁川(インチョン)広域市における14年のアジア競技大会開催に向け、馬術の中国代表を選出する目的で建設された。ここで初めて馬術競技場の設計を経験。同時期に招致が決定した「東京2020」大会における馬事公苑の再整備事業につながっていった。