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 「東京2020」大会のためにリニューアルが進められた「馬事公苑」では、山下設計が仮設オーバーレイを含む新施設の設計を手掛けた。担当者の髙木賢治・ソリューション本部特任部長は大会後の利用に向け、2期工事の実施設計に着手した。五輪レガシーの整備を通じ、「公苑開設当初からの使命である馬事普及につなげたい」と語る。

 馬事公苑(東京都世田谷区)は日本中央競馬会(JRA)が運営する馬事普及・馬事振興の拠点施設だ。1940年に行われる予定だった東京五輪のために開設。以来、「日本の馬事文化の拠点」として馬術人口の拡大という使命を担ってきた。

「馬事公苑」の設計を担当した山下設計ソリューション本部の髙木賢治特任部長。1971年生まれ。97年東京芸術大学大学院美術研究科環境建築専攻修了後、山下設計入社。設計本部主管、デジタルデザイン室室長、監理部副部長などを経て、現在、ソリューション本部特任部長兼設計本部EPRプロジェクト室室長(写真:日経クロステック)
「馬事公苑」の設計を担当した山下設計ソリューション本部の髙木賢治特任部長。1971年生まれ。97年東京芸術大学大学院美術研究科環境建築専攻修了後、山下設計入社。設計本部主管、デジタルデザイン室室長、監理部副部長などを経て、現在、ソリューション本部特任部長兼設計本部EPRプロジェクト室室長(写真:日経クロステック)
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髙木氏が担当した「馬事公苑」(東京都世田谷区)の北東部にあるメインアリーナ(後利用時は「競技会メイン会場」)。「東京2020」大会で馬術競技に使用。設計:山下設計、施工:大成建設。写真は五輪馬術競技時(21年7月25日撮影)(写真:日経クロステック)
髙木氏が担当した「馬事公苑」(東京都世田谷区)の北東部にあるメインアリーナ(後利用時は「競技会メイン会場」)。「東京2020」大会で馬術競技に使用。設計:山下設計、施工:大成建設。写真は五輪馬術競技時(21年7月25日撮影)(写真:日経クロステック)
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 「東京2020」大会の馬術競技の会場に選ばれたため、国際馬術連盟が定める要求水準を満たすようにリニューアルする必要があった。「既存施設よりも規模が大きくなって不思議でないところを、限られた敷地の中で、いかに効率よくまとめるかが設計のポイントだった」

 そこで、メインオフィスやインドアアリーナ、厩舎など様々な用途の建物をメインアリーナ周辺に集約した。結果、コンパクトな配置で移動の無駄を減らし、効率的な運営が可能になった。

「特にパラリンピック時に競技者が車椅子で移動する際の距離を短くできた。コンパクト化の大きな利点だ」

馬事公苑。オペレーションセンター(後利用時は「管理センター」)から敷地南東部にある厩舎方向を見る。右手はインドアアリーナ。各機能がコンパクトに集約されている(写真:安川 千秋)
馬事公苑。オペレーションセンター(後利用時は「管理センター」)から敷地南東部にある厩舎方向を見る。右手はインドアアリーナ。各機能がコンパクトに集約されている(写真:安川 千秋)
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馬事公苑。インドアアリーナとオペレーションセンターの間からメインアリーナ方向を見る(写真:日経クロステック)
馬事公苑。インドアアリーナとオペレーションセンターの間からメインアリーナ方向を見る(写真:日経クロステック)
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馬事公苑。インドアアリーナのテラスからオペレーションセンター方向を見る(写真:日経クロステック)
馬事公苑。インドアアリーナのテラスからオペレーションセンター方向を見る(写真:日経クロステック)
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馬事公苑。インドアアリーナ越しに周辺の街を見る。公苑は住宅地に取り囲まれた場所にある(写真:安川 千秋)
馬事公苑。インドアアリーナ越しに周辺の街を見る。公苑は住宅地に取り囲まれた場所にある(写真:安川 千秋)
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高齢者や車椅子利用者が自由に散策できる「公苑」に

 2020年2月、南アフリカで開催された国際競馬会議「ARC南アフリカ2020」に出席し、馬事公苑のユニバーサルデザインとSDG’s(持続可能な開発目標)対応に関してプレゼンテーションした。以下は、JRAが今回のリニューアルに際して打ち出した方針だ。

(1)東京大会だけでなく、東京大会以降もパラ馬術競技を開催できる施設にする
(2)障害者が施設に簡単にアクセスできるようにする
(3)子どもやお年寄りに好まれる環境を提供する
(4)資源の有効活用と省エネ対策によって、持続可能な開発を推進する

20年2月、南アフリカで開催された国際競馬会議「ARC南アフリカ2020」で、馬事公苑のユニバーサルデザインとSDG’s対応に関してプレゼンテーションする髙木氏(写真:山下設計)
20年2月、南アフリカで開催された国際競馬会議「ARC南アフリカ2020」で、馬事公苑のユニバーサルデザインとSDG’s対応に関してプレゼンテーションする髙木氏(写真:山下設計)
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 敷地内の高低差は最大6m。起伏に富んだ競技エリアの各ポイントには、車椅子でアプローチできるルートを確保した。武蔵野自然林内に新設した空中立体歩廊は、車椅子で3mの高さまで上がれるスロープになっている。「高齢者や車椅子の利用者が、独りでも自由に苑内を散策できるように配慮した」

馬事公苑の敷地南西部、ナチュラルアリーナにある東屋。市民が馬を見たり、触れたりできる場を苑内各所に設けている。高齢者や車椅子利用者が散策しやすいよう、ユニバーサルデザインに配慮した(写真:安川 千秋)
馬事公苑の敷地南西部、ナチュラルアリーナにある東屋。市民が馬を見たり、触れたりできる場を苑内各所に設けている。高齢者や車椅子利用者が散策しやすいよう、ユニバーサルデザインに配慮した(写真:安川 千秋)
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馬事公苑のナチュラルアリーナ。馬術競技のクロスカントリーに対応している(写真:安川 千秋)
馬事公苑のナチュラルアリーナ。馬術競技のクロスカントリーに対応している(写真:安川 千秋)
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馬事公苑の敷地中央部にある放牧場(写真:安川 千秋)
馬事公苑の敷地中央部にある放牧場(写真:安川 千秋)
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馬事公苑の武蔵野自然林部分に設けられた空中散策路「フォレストパス」(写真:安川 千秋)
馬事公苑の武蔵野自然林部分に設けられた空中散策路「フォレストパス」(写真:安川 千秋)
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馬事公苑の武蔵野自然林部分に設けられたツリーハウス(写真:安川 千秋)
馬事公苑の武蔵野自然林部分に設けられたツリーハウス(写真:安川 千秋)
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 その他、アクセシビリティ(アクセスのしやすさ)への配慮としては、車椅子用のシャワー室、車椅子トイレ、多目的トイレ、盲導犬・介助犬・聴導犬用の補助犬トイレを苑内各所に設置した。