「ただいま電話が混み合っています」――。電話のこうした自動音声案内に誰しも聞き覚えがあるだろう。大規模な災害時、あるいは人気アーティストのコンサート予約や人気商品の先着販売といった場面で電話会社がかける「通信規制」によるものだ。
通信規制には、特定の電話番号に通話が集中して他の通話がつながりにくくなったり、緊急通報(110番、118番、119番)など重要な通話が使えなくなったりするのを防ぐ目的がある。最近ではNTT東日本とNTT西日本が新型コロナウイルスのワクチン接種予約窓口の電話番号に対して通信規制を実施したことで話題になった。この措置を巡って2021年5月19日、東京都内の一部の固定電話に通信障害が発生したことも記憶に新しい。
もっとも、情報通信インフラの主役は今やインターネット。そんな時代に「電話には混雑緩和のための規制が必要」と言われてもピンとこない人は多いだろう。そこを理解するには、電話のネットワークの成り立ちを知る必要がある。
電話がつながっている間は回線を「占有」
電話が混雑した際に通信規制の必要が出てくるのは、「回線交換」型のネットワークになっているからだ。
回線交換ネットワークは、交換機と呼ばれる装置を使ったネットワークである。電話をかけると利用者の電話機と交換機、そして交換機同士が手と手を取り合うようにつながっていき、最後に相手の電話機に接続して通話できる。
具体的にはまず利用者が電話機から相手先の電話番号をかけると、その内容が最寄りの「加入者交換機」に伝わる。そこから電話番号に基づいて相手先の電話機に向かう交換機へ次々とつながっていく。県外などに電話をかけると「中継交換機」も経由する。これを繰り返して相手先の近くの加入者交換機までたどりつき、最終的に相手先の電話機と通話するための回線を設定する。
ただし交換機に接続できる回線数には上限があり、空きがあるときだけ通話ができる。電話をかける際に設定した回線は、通話が終了するまで占有される仕組みだ。通話ごとに回線を占有させることによって通話品質を保てるようにしている。
このように通話ごとに回線を占有する仕組みなので、着信側の回線数を大きく超えて発信が発生した場合などには、途中にある交換機同士がつなげなくなるといった事態が起こり得る。そこで電話会社はネットワークを常に監視。混み合っている地域への通話をある程度制限しながら回線の空きを保つ。これにより他の通話がつながりにくくなることを避けているのだ。