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 三井住友海上火災保険やあいおいニッセイ同和損害保険を傘下に置くMS&ADインシュアランスグループホールディングスが、基幹系システムのグループ共通化や重要業務へのAI(人工知能)導入を急ピッチで進めている。その背景には損害保険事業の先行きに対する危機感がある。

 2021年7月には、三井住友海上とあいおいニッセイ同和損保の2社が使用する共通の保険金支払いシステム「BRIDGE」が稼働した。当初は三井住友海上の自動車保険で利用するほか、火災保険や傷害保険といった他の保険種目やあいおいニッセイ同和損保にも拡大する。

 保険金支払いに際して行われる顧客と担当者とのやり取りを管理するシステムで、顧客が被害を申請する「事故報告」から保険金の受け取りまでをWeb上などで完結できるようにした。2010年4月に経営統合したMS&ADは中核損保会社の三井住友海上とあいおいニッセイ同和損保を合併せず、事務や情報システムを統合する「機能別再編」を進めてきた。2014年に契約管理システムを「ユニティ」として共通化し、BRIDGEによって保険金支払いシステムを共通化する。

MS&AD インシュアランスグループホールディングスのグループCDO(最高デジタル責任者)兼グループCIO(最高情報責任者)兼グループCISO(最高情報セキュリティー責任者)の一本木真史執行役員
MS&AD インシュアランスグループホールディングスのグループCDO(最高デジタル責任者)兼グループCIO(最高情報責任者)兼グループCISO(最高情報セキュリティー責任者)の一本木真史執行役員
撮影:陶山勉
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 「電子データで書類などをやりとりするため、ペーパレスの取り組みが進み脱炭素に貢献できる」とMS&ADでグループCDO(最高デジタル責任者)とグループCIO(最高情報責任者)、グループCISO(最高情報セキュリティー責任者)を務める一本木真史執行役員は説明する。

 例えば自動車保険において、紙の使用量はA4用紙で換算して年間約3500万枚、約140トンを削減できると見込む。システム統合は2015年から始め、800億円を投じた。ガイドワイアソフトウェアジャパンのパッケージソフトウエア「Guidewire ClaimCenter」を採用した。

被害推定にAIを積極導入

 2021年7月には、三井住友海上が自然災害の被害調査にAIやドローン、チャットボットを導入する「水災デジタル調査」を始めた。AIやドローンによって浸水高を推定し、顧客はチャットボットを使って被害状況を申告して、損害額を自動算出する。顧客は水災に際して非対面で保険金を受け取れるようになる。

 水災発生後にドローンが上空から被害を受けた地域を撮影し、画像をもとに地表の3次元モデルを作成する。数学ベンチャーのArithmer(アリスマー)が開発したAIを用いる流体解析アルゴリズムを使い、データを分析して浸水高を算出する。ドローンにはエアロセンスの垂直離着陸型固定翼ドローン「エアロボウイング」を使う。

エアロセンスの垂直離着陸型固定翼ドローン「エアロボウイング」
エアロセンスの垂直離着陸型固定翼ドローン「エアロボウイング」
出所:三井住友海上火災保険
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 さらに富士通と開発したチャットボットで顧客が建物情報や被害情報などを自己申告できるようにした。浸水位置に加えて、A4サイズの資料やトイレットペーパーなど大きさが分かる比較対象物を撮影した画像を送信すると、浸水高を自動で測定する。

 三井住友海上は、事故件数が1万件の水災被害が発生した場合に水災デジタル調査を活用すると、立ち合い調査を7000件ほど削減でき、調査に必要となる要員も約2800人減らせると見込んでいる。