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 三井住友海上火災保険やあいおいニッセイ同和損害保険を傘下に置くMS&ADインシュアランスグループホールディングスは、「DX(デジタルトランスフォーメーション)」「DI(デジタルイノベーション)」「DG(デジタルグローバリゼーション)」という3つの「D」でデジタル改革を進めている。同社はDXを「既存損保事業の業務変革」と位置付けるが、変革の対象は通常業務だけでない。新人研修すらもデジタル技術で変えようとしている。

 三井住友海上は2021年7月に、VR(仮想現実)を活用した家屋の損害調査研修を導入した。同社の新入社員が米Facebook Technologies(フェイスブックテクノロジーズ)の「Oculus Quest 2」を装着して仮想空間の中に作られた被災家屋の中に入り、損害調査の実務を疑似体験する。

VR(仮想現実)を活用した家屋の損害調査研修
VR(仮想現実)を活用した家屋の損害調査研修
出所:三井住友海上火災保険
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 仮想空間の家屋には和室や洋室といった複数の部屋があり、地震を原因とする損傷が屋根や壁などに生じている。新入社員はVR端末のスティックを操作して家屋の中を自由に移動し、壁のひび割れを仮想空間内のカメラで撮影したり、メジャーで計測したりする。

VR研修で用いるVR端末「Oculus Quest 2」
VR研修で用いるVR端末「Oculus Quest 2」
撮影:日経クロステック
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 この研修は集合研修であるため、他の社員の姿は仮想空間内にアバターとして存在する。社員が発した音声は、仮想空間内でのアバター同士の距離に応じて近いほど大きく、遠いほど小さく聞こえてくるため、まるで実際に集合研修に参加しているかのようなリアルな体験ができる。座学をする際は、仮想空間内の壁面に資料を投影して行うなど、仮想空間内での研修を徹底している。

 同じ内容を扱う従来の研修は、実習がない座学だけで時間も半日ほどかかっていた。それに対してVR研修では、事前に10分間ほどVRの使い方を動画で学ぶ必要があるものの、調査業務の研修自体は1時間ほどで完了する。「建物を見ながら説明が聞けるので、参加者の理解も早い」。研修を担当する三井住友海上損害サポート業務部ナレッジチームの本多聡課長はそう説明する。

VRの集合研修で「同期との一体感」

 100人以上の新入社員や中途入社の社員に対してVR研修を行う計画で、既に受講した社員からは「非常にポジティブな反応が得られた」(本多課長)という。VR研修は自宅やソーシャルディスタンスの保たれたオフィスの中から参加するが、研修中は他の社員がアバターとしてすぐそばにいるように感じられる。コロナ禍の中で入社した社員は在宅勤務ばかりで同僚になかなか会えず、孤独感を抱えている。VRによる集合研修で「同期との一体感が生まれた」(受講アンケート)という効果が生まれた。

室内の壁の損害を調べる様子
室内の壁の損害を調べる様子
出所:三井住友海上火災保険
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 VR研修自体はコロナ禍に入る前から検討していた。これまでは損害調査の研修といっても実際の被災家屋を用いるのは困難であり、座学メインか損傷のない家屋を使った実習をするしかなかったためだ。コロナ禍で集合研修が難しくなったことからVR研修の必要性がさらに高まった結果、2021年から実際に導入した。

 VR研修の仕組みは、VRやAR(拡張現実)のコンテンツ開発を手がけるSynamon(シナモン)と協業して開発した。VR研修は2021年4月から自動車保険の研修にも取り入れている。家屋の損害調査に関するVR研修については今後、建物の種類を増やすなどコンテンツを充実させる計画だ。