建設会社の新入社員の離職率が高止まりしている。厚生労働省の調査によると、建設業ではここ数年、就職後3年以内に離職した新卒者の割合が大卒で約30%、高卒で約45%という状況が続いている。製造業と比べると、大卒で約9ポイント、高卒で約17ポイント高い。建設会社にとって若手の離職の防止は重要な課題だ。
前田建設工業土木事業本部人材開発グループ長の上村昭博氏は、若手の個性に応じた指導で仕事への意欲と自信を向上させ、離職を防ぐ取り組みを進めている。新入社員については、その性格や能力を見極め、配属のミスマッチを防ぐよう心掛けている。
2020年4月から1年近く務めた「教育長」の頃には、土木部門の新入社員を「難しいことに意欲的なタイプ」「業務に着実に取り組むタイプ」に分け、例えば後者の社員がトンネル工事の現場へ配属されるよう調整した。「トンネル工事では繰り返しの作業が多いので、業務に着実に取り組むタイプの方が向いているからだ」(上村氏)。
同社の教育長とは、本店で新入社員教育を一手に担う役職だ。土木や建築など各部門に1人配置する。建設業界で若手の離職率が高まる中、「教育重視」の経営方針を社内外にアピールするため、17年度に創設した。
例えば土木部門では、4月に入社した社員全員が本店所属となり、翌年2月の各部署への配属まで教育長の指揮下に入る。期間中には、座学を中心とした集合研修で専門知識を学ぶ他、建設現場で2回、本店の設計部門で1回、それぞれ実地研修を受ける。
上村氏は18年1月から2年余り、九州支店の土木施工グループ長を務めた。そのときの若手育成の取り組みが評価され、20年4月に本店の教育長に抜てきされた。教育長着任時には、「新入社員の離職を防ぐには、しっかり見守り、丁寧に育てる必要がある」と考えた。
ただ上村氏が教育長に就いたのは、新型コロナウイルスの感染拡大で、政府が最初の緊急事態宣言を出した頃だ。入社式が開催中止となるなど、新入社員だけでなく、上村氏にとっても、異例のスタートとなった。