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 人工知能(AI)が入居希望者の家賃滞納発生を予測します――。

 不動産与信ベンチャーのリース(東京・新宿)は家賃債務保証会社を対象に、そんなAIを使った入居審査支援ツールβ版の無償提供を2021年8月16日に始めた。過去1万件以上の入居時審査や滞納状況などのデータをもとにAIモデルを開発した。入居希望者の情報を入力すると、その人の家賃滞納発生確率を予測する。

 このサービスは開始の2カ月前、「プチ炎上」に見舞われた。同年6月中旬、同社がβ版を利用する企業の募集を始めたところ、AIに詳しい専門家らの間で「AIの予測結果はどう説明するのか」「入居審査の不公平につながるのではないか」といった懸念の声が上がったのだ。

入居審査支援ツールβ版の入力画面のサンプル
入居審査支援ツールβ版の入力画面のサンプル
出所:リース
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これまで見えなかった不公平が、AIツールで可視化される?

 リースの入居審査支援ツールでは、入居審査対象者の住所や性別、年齢、国籍、婚姻状態、雇用先、勤務形態などを入力することで、その人の家賃滞納発生確率を予測する。その結果を参考にして最終的に審査の可否を決めるのは、審査を担当する人間だ。

 人間による一般的な入居審査でも、AIツールに入力するのと同様の情報を利用しているという。通常の審査フローにツールを追加することで、審査時間を短縮するほか、将来の家賃滞納発生を抑えられる可能性がある。

 このツールについて、情報法が専門の九州大学法学研究院の成原慧准教授は「まず『AI倫理』の問題が2つ生じうる」と指摘する。1つは、AIによる家賃滞納発生確率の予測結果について、判断の理由が明確にされない「透明性」の問題だ。もう1つは、審査の「公平性」を担保するために、国籍など不当な差別につながりかねない情報を入力データとして使うことが妥当かどうかといった問題だ。

 一方で、人間による審査も不透明だったり不公平だったりする。「留学生は入居審査に通りにくいなど、これまでも社会の中で見えにくい形で行われていた差別が、AIツールを使うことで可視化されるかもしれない。AIは、人間がこれまで行ってきた差別を増幅したり、また見えにくい形だった差別に気づかせてくれたりすることもある」(成原准教授)。

AIの適切な利用には「人の関与」が不可欠

 リースの中道康徳社長CEO(最高経営責任者)は、そうした人間による審査の不透明さや不公平さを解決するために、AIを使った入居審査支援ツールを開発したと説明する。「勤務形態や国籍だけで審査を落とすケースがある。そうではなく、その人自身を正しく捉えたい」(中道社長)。

 かつてフリーランスで活動していた中道社長にも、韓国籍の尹英俊COO(最高執行責任者)にも、審査に通らず家を借りられなかった経験がある。尹COOは、「不当な判断に基づく不利益は現実に起きていて、中道も僕も経験してきた。それを解消したいというのが根っこにある」と話す。

 そこで「例えば『今は審査に通らないとしても、こういうアクションを積み重ね、示されれば将来的に通るようになる』といった具体的な形で示したい」(尹COO)として、家賃滞納AIの機能拡充を進めているという。

 同社はこれまで家賃債務保証事業を運営する中で、1万件以上の入居審査や家賃滞納のデータを得てきた。家賃滞納をした人のデータには滞納した回数や期間などのほか、リースが督促の電話をかけた回数や、対象者がその電話に出た回数なども含まれる。なお、入居審査対象者から個人情報を取得する際には、個人情報の利用目的として、審査のためのモデル開発に利用すると記載しているという。

 AIが出す結果がなるべくブラックボックスにならないよう、機械学習の手法の1つである「決定木」を採用している。結果に至るプロセスを図示するサービスをツールの機能として提供することも構想しているという。将来的には、例えば「貯金があといくら増えると貸せます」などといったアドバイスもできるようになる。

 現状は、家賃滞納予測の精度は70%ほど。精度を上げたり、バイアスがかからないようにしたりするためにも、利用する学習データやモデルの改善を進めている。