全4349文字
PR

 AI倫理とは、突き詰めれば「品質管理」の問題だ――そんな発想で、人工知能(AI)の倫理に関わるリスクに立ち向かう動きが国内企業の間で広がっている。その代表格がソニーグループ(ソニーG)だ。

 ソニーGは2021年7月、同社のエレクトロニクス製品にこれまで適用していた品質マネジメントシステム(QMS)に、AI倫理の審査・評価を追加し、運用を始めた。なぜソニーGは、AIが関わる製品の品質管理に倫理面での審査を追加したのか。

AI倫理面での懸念があった

 「画像認識をはじめとするAI技術を様々な事業部で活用しているが、公平性に関しては人種、性別などAI倫理面での確認が必要と感じていた」と、ソニーAIコラボレーションオフィスシニアチーフリサーチャーの藤田雅博氏は話す。

 そこで2021年3月にまずエレクトロニクス製品を対象として、従来のQMSに追加する形でAI倫理のQMSルールを策定。さらに事業部ごとにAI倫理の責任者を任命し、それぞれの事業部でAI倫理の審査・評価を行う運用を7月からスタートさせた。さらに、社内のAI倫理専門組織が各事業部に対して、情報提供や技術サポート、教育などの支援をしている。

ソニーGのAI倫理の審査・評価の流れ
ソニーGのAI倫理の審査・評価の流れ
出所:ソニーグループ
[画像のクリックで拡大表示]

 AI倫理面での審査・評価は、企画、開発、量産、発売のそれぞれの段階で実施する。評価用のツールも用意した。審査・評価のためのチェック項目を含むドキュメントや、AIの出力根拠を可視化するツール、データの寄与率を判定するツールなどだ。

 審査・評価は、2018年9月に整備した「ソニーグループAI倫理ガイドライン」に対応しているかどうかなどを確認する。開発プロセスの早い段階でリスクを特定し、対応するのが狙いだ。例えば、企画段階では利用目的やユースケースが同ガイドラインに合致するかどうかを確認したり、リスクシナリオを作成したりする。開発段階では、製品のAIの要求性能などを確認する。「(AI倫理の評価基準は)事業部がリスクや事業性を想定して設定するものだが、できれば定量的な目標値があるとよい」(藤田氏)。

ソニーグループAI倫理ガイドライン
1豊かな生活とより良い社会の実現
2ステークホルダーとの対話
3安心して使える商品・サービスの提供
4プライバシーの保護
5公平性の尊重
6透明性の追求
7AIの発展と人材の育成

AI倫理を実装するのに、経営トップから全社体制を整備

 こうしたAI倫理を含む品質管理を現場に実装するために、ソニーGは2018年9月のガイドライン発行から約3年近くかけて社内体制や必要なツール、システムを経営トップレベルから整備してきた。

 同ガイドラインはソニーGの行動規範やミッション、ビジョンといった目指す姿と、国内外のAI関連指針などを参考にしながら作成した。これをグループ全体の活動に実装するためにまず進めたのが、組織体制の構築である。「ガイドライン発行後に、実装の仕組みをどうするか検討する中で、当初から体制をつくるべきだと進めてきた」と藤田氏は振り返る。

 まず2019年12月に社内のAI倫理委員会を設置した。同委員会の機能は3層構造からなり、トップに位置する「ステアリングコミッティ」は、ソニーGの吉田憲一郎会長兼社長CEO(最高経営責任者)がメンバーを指名し権限委譲する。委員長をはじめ現在計6人のメンバーは全て上級役員からなり、各事業部から上がってくるリスクの精査やアドバイスを担う。特に、同ガイドラインに反する可能性がある「ハイリスク」の案件について対応を検討するという。

ソニーGのAI倫理委員会の構成
ソニーGのAI倫理委員会の構成
出所:ソニーグループ
[画像のクリックで拡大表示]

 第2層は実務委員とワーキンググループからなり、情報収集・発信、審査・評価の運用、教育、ツールの整備などの実務を担う。ワーキンググループはテーマごとに5つあり、メンバーはグループ内の事業部門や間接部門などから社員数十人が参加している。

 そして第3層に相当するのが、実際にQMSの一環として現場での運用を担う、それぞれの事業部である。

 これらに加え、AI倫理委員会の事務局機能を担うAI倫理室の前身であるAI倫理推進室を2020年5月に設置した。同ガイドラインを順守するための運用を整備する役割を担う。

 エレクトロニクス製品ではすでに通常のQMSでのレギュレーションが確立し、新たに導入するよりも運用につなげやすいため、AI倫理の審査・評価の導入が先行した。今後は金融、エンターテインメントといった他のサービスにも展開していく計画としている。

人権に配慮したAI品質管理に「数値目標」

 AI倫理を品質管理プロセスで審査する取り組みを進めているのはソニーGだけではない。同様に画像認識を倫理面でのリスクとしてとらえ、AIガバナンスを進めてきたのが、顔画像認識技術でリードするNECだ。NECが推進するAI製品向け品質管理の特徴は、明確な数値目標を定めている点である。