DX(デジタルトランスフォーメーション)の取り組みが既に6年目に入ったSOMPOホールディングス(HD)は、2021年4月から新たな事業の柱に「デジタル」を据えた。国内外の有望スタートアップと組んで、データを基に新事業を起こすだけでなく、既存事業も変革している。けん引役となる経営陣はDXをどう推し進めようとしているのか。キーパーソン4人への一問一答でひもとく。
第3回は、AI(人工知能)を開発するスタートアップABEJA(東京・港、アベジャ)の岡田陽介CEO(最高経営責任者)の一問一答だ。2021年4月23日、SOMPOHDとABEJAは資本業務提携契約の締結を発表。SOMPOHDはABEJAの発行済み株式の21.9%を保有する筆頭株主となった。協業の経緯と理由を岡田CEO自らが語った。
どのような経緯でSOMPOHDとの資本業務提携に至ったのでしょうか。
一朝一夕で出資が決まったのではありません。1年半ぐらい共同で複数のプロジェクトを進め、結構泥臭く人間関係を築き上げてきました。「これからも一緒にできたら面白そうだな」と互いが思えるようになったところで出資してもらいました。
イベントでSOMPOHDの楢崎浩一グループCDO(最高デジタル責任者)と私が一緒に登壇することがたびたびありました。最初はそれぞれの会社がやろうとしていることについて情報交換していたのですが、1年半ほど前から具体的な話をするようになりました。まずは当社の技術力を確認してもらうために自動車保険の分野でドライブレコーダーを画像解析するPoC(概念実証)に取り組みました。
本番運用へのノウハウが評価
PoCではどのようなポイントが評価されたと思いますか。
企業のAI活用ってPoCで終わってしまうことがよくありますよね。当社にはPoCから本番運用に持っていくノウハウがあります。そこを評価してもらったのではないかと考えています。
例えばPoCでAIの精度が70%だったとしましょう。SOMPOHDのように人の命に関わる事業を営む企業は、ミスが許されない「ミッションクリティカル」な業務ばかりで、AIに求める正確さや精密さも高い。精度70%では全く使い物にならないわけです。
当社はそこから残り30%を補完するために、現場の人の経験やナレッジを基にしたデータを再度学習させ、システムとしての精度を100%に近づけます。精度90%の人間と競わせながらAIを育て、精度を徐々に上げるというアプローチです。精度70%しかないAIを企業の現場でどう使うのかと逆説的に考え、本番運用ができるレベルまでAIの精度を高めているケースは、当社以外に日本でもそんなに多くないと自負しています。
ABEJAは米Google(グーグル)や米半導体大手のNVIDIA(エヌビディア)といったハイテク企業からも出資を受けています。そうしたなか、ABEJAはSOMPOHDのどこに魅力を感じて提携したのでしょうか。
ミッションクリティカルかつ歴史の長い業界の現場にAIを適用するのは、IT企業やゲーム企業などのデジタル化された空間にAIを適用するのと比べて難しいです。我々は2012年の創業以来、9年間にわたって製造業や小売業などの現場でAI活用を支援してきました。だからこそグーグルやエヌビディアのような企業が評価してくれているのだと思います。
今、SOMPOHDと一緒に取り組んでいるのが、介護施設での服薬管理プロジェクトで、これはデータベースの整理から始めています。これまでデジタル技術になじみがなかった業界のAI導入はかなり難度が高いですが、だからこそ我々のノウハウを生かせる部分が大きいと判断しました。加えて、(同プロジェクトは)ABEJAのフィロソフィーである「ゆたかな世界を、実装する」に通ずるものがあり、社会課題の解決につながる領域で取り組めることに意義を感じています。
SOMPOグループにはデジタル化されていないリアル領域のデータが豊富にあり、今後さらに共同の取り組みを増やせそうだという点も提携を決めた重要なポイントです。