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 DX(デジタルトランスフォーメーション)の取り組みが既に6年目に入ったSOMPOホールディングス(HD)は、2021年4月から新たな事業の柱に「デジタル」を据えた。国内外の有望スタートアップと組んで、データを基に新事業を起こすだけでなく、既存事業も変革している。けん引役となる経営陣はDXをどう推し進めようとしているのか。キーパーソン4人への一問一答でひもとく。

 第4回に登場するのはSOMPOHDの中核子会社、損害保険ジャパンでITを統括する浦川伸一取締役専務執行役員だ。同社は2021年3月、全社規模のDXを後押しする新たな基幹システムを本番稼働させた。構想から稼働まで足かけ8年、総額2000億円を投じたとされるビッグプロジェクトの全貌を語ってもらった。

(聞き手は高槻 芳、外薗 祐理子、馬本 寛子)

損害保険ジャパンの浦川伸一取締役専務執行役員。システム子会社SOMPOシステムズの会長も務める
損害保険ジャパンの浦川伸一取締役専務執行役員。システム子会社SOMPOシステムズの会長も務める
(写真:村田 和聡)
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新基幹システム「SOMPO-MIRAI」の第1期が2021年3月に本番稼働を迎えました。約34年ぶりとなる基幹系刷新に踏み切った背景を教えてください。

 今回の取り組みはもともと既存システムの老朽化対策としてスタートしました。当社は2014年に旧損保ジャパンと旧日本興亜損害保険が合併して発足し、その際に両社の基幹システムも統合しました。基本的に旧損保ジャパンのシステムに寄せたのですが、旧日本興亜の一部業務を継続するために、同社システムも併用していました。

 しわ寄せを受けたのは現場です。事務処理の手間が大きく増え、社内から「何とかしてほしい」との声が上がっていました。2つの基幹システムを残した状態で何か新しいことを始めようとしても、現場の負担が重くなり過ぎて難しいだろう。このままでは来るDXの波を乗り切れないのではないか――。そんな懸念を解消する必要がありました。

先を見通せない時代に追随できるシステムが必要

 それだけではありません。SOMPOHDの桜田(謙悟グループCEO社長)や当社の西沢(敬二社長)と将来のIT構想について話し合うなかで「先を見通せないVUCA(変動性・不確実性・複雑性・曖昧性、ブーカ)の時代に、うちの(従来の基幹)システムは対応できないのではないか」といった議論になりました。彼らから「保険業界が今後どう変化したとしても、そこに追随できるITインフラにしてもらいたい」との要請を受け、2013年ごろから新たな基幹システムを構想し始めました。

 加えて、桜田からはよく「(目まぐるしく変わる環境に適応するため俊敏で臨機応変な経営をする)Light Footprint(LFP、軽い足跡)経営を目指す」とも聞いていました。では、LFPの考え方を基幹システムとして実装するにはどうすればよいのか。今回のプロジェクトでは、そのことを徹底的に考え抜きました。

 桜田の危機感は半端ではありません。今でも(システムに関して)週に1度や2度はチャットが飛んでくるほどです。

SOMPO-MIRAIではシステム全体を小さなブロックに分割する「マイクロサービス」と呼ばれる構造を採用しています。狙いは何ですか。

 これまでの金融機関における重厚長大なシステムのつくり方は、例えば「勘定系」「情報系」「フロント系」「契約系」など、会社の仕組みをそのままシステム構造に反映させるというものでした。

 でも、そういったシステム構造はVUCAの時代にそぐわないと私はかねて考えていました。実際、基幹系全体にマイクロサービスを適用したSOMPO-MIRAIには様々なメリットがあります。例えばAI(人工知能)の機能をプログラムの部品として実装しておいたとしましょう。AIの技術が陳腐化したときには、その部品だけ最新技術に基づいてつくり直し、あたかもおもちゃのブロックのように取り換えるだけで済むのです。

 自動車保険などの保険商品には非常に多くの「特約」がついています。1つひとつの特約をプログラム部品にしておけば、将来的に外部企業から「あの保険商品に付加されている、この特約だけ欲しい」と頼まれても対応しやすくなります。特約だけを切り出してAPI(アプリケーション・プログラミング・インターフェース)経由で提供すればよいのですから。

 実はSOMPO-MIRAIをこうしたシステム構造にしようと私がひらめいた背景には、ある体験があります。渋谷ヒカリエ(東京・渋谷)のレストランで食事していた際、再開発が進む渋谷駅を見て「これはとてつもないプロジェクトだ」と感銘を受けたのです。

 ヒカリエができた後も電車の運行を続けながら、2027年まで長期にわたって大規模な再開発を進めていく。その一方で、地下道など共通インフラについてもきっちりとつくる。外側からは単にビルを次々と建て替えているだけのように見えますが、インフラ的には極めて構造化されているわけです。自分が思い描いていたシステムの在り方と非常に似ているな、そう感じたことを覚えています。