中国、韓国、日本の東アジア勢に主導権を握られたリチウムイオン電池の覇権奪回に、欧州連合(EU)がなりふり構わぬ姿勢で臨む。一躍主役に立つのがリサイクルだ。EU電池規制案の中核で、電池開発を左右する資源争奪戦の切り札との声が飛び出す。環境という「正義」を旗印にEU産業を優位にしようとする強引な手法に、日本企業は戸惑いながらも対策に走り始めた。
国際ルールに早くも布石
EUが2020年12月に公表し、22年1月から開始する予定の電池規制案――。その骨子は、27年から電気自動車(EV)のリチウムイオン電池などを対象にコバルト(Co)やリチウム(Li)、ニッケル(Ni)などのリサイクル材の使用量を開示するよう求め、30年から2kWh以上の同電池を搭載した製品にリサイクル材の使用を義務付けるものである(図1)。
EUは、脱炭素を目指したエネルギー転換と並ぶ環境政策の柱に「循環経済(サーキュラーエコノミー)」を掲げる。その重点対象に選んだのがリチウムイオン電池というわけだ。同電池開発の勢力図を一変させかねない提案で、資源問題に詳しい東京財団政策研究所研究員の平沼光氏は「放っておけば日本での電池製造が困難になる」と危機感をあらわにする。
EU基準にのっとったリサイクル材をリチウムイオン電池に使用しなければ、EUで同電池を販売できなくなる可能性がある。東アジアに偏る電池部品供給網(サプライチェーン)を強引にでもEUに奪い取りたい思惑が透ける。
影響はリチウムイオン電池産業にとどまらない。同電池はEVの中核で、自動車産業の覇権争いを左右する。電池規制案と呼応するように、欧州委員会は21年7月、エンジン車の販売を35年までに事実上禁止し、EVの普及を後押しする衝撃的な規制案を発表した。電池の最大供給先となるEV市場を強制的に拡大し、EU域内における電池サプライチェーンの構築を後押しする。
日本企業では、リチウムイオン電池メーカーを抱えるトヨタ自動車が部品と車両の両面でEUに攻撃された格好になる(図2)。電池覇権を握る中国企業では、世界大手の寧徳時代新能源科技(CATL)を狙い撃ちしているとの見方がある。比亜迪(BYD)といった電池とEVをともに手掛ける企業にも厳しい内容である。
EUは電池規制案の国際標準化に向けた布石もいち早く打つ。18年、フランスの標準化機関であるAFNOR(アフノール)が国際標準化機構(ISO)にサーキュラーエコノミーに関する技術委員会の設置を提案した。
現在は「技術委員会(TC)323」で標準化の議論を始めている。参加国は日本を含む72カ国、オブザーバーは12カ国に上るが、議長国はフランスが握った。EUのサーキュラーエコノミー関連法案を基にISOで議論しているようだ。いずれISO規格に「昇格」すれば、世界の多くの国や地域で、EUルールにのっとった電池開発が避けられなくなる。