これからはIoT(Internet of Things)の時代になるといわれてから早10年。しかし、日本ではその世界が広がったとは言い難い。一方でこの1年ほどで「組合せ最適化」を利用したDX(デジタル変革)が急速に広がりつつあり、トヨタグループを含む国内の主要企業の多くが既に実証実験に参戦している。主役は、組合せ最適化問題を専門に解く「イジングマシン」だ。
「昨年(2020年)から、イジングマシン†を使った業務改革支援サービスへの関心が急速に高まり、引き合いベースなら数百件。契約した案件でも100件あまりある」─。2019年に世界で初めて量子アニーリング(QA)を含むイジングマシンを実サービスに使ったグルーヴノーツ 代表取締役社長の最首英裕氏は、その背景として、コロナ禍でのDX(デジタル改革)への関心の高まりと業務改革内容を数学的に抽象化しやすいイジングマシンの登場のタイミングが一致したことを挙げる(最首氏へのインタビュー「多様性と効率をイジングマシンで両立、課題への数学的アプローチ重視が強み」を参照)。
目的なしでは進まない
身の回りに多数のセンサーが配置され、毎年1兆個(トリリオン)を超えるペースで増えていくIoT(Internet of Things)の世界が来ると米国で叫ばれ始めたのが2010年前後注1)。構造化前のデータをあえてため込むビッグデータ†やIoTの“前身”ともいえるM2M†も含めると20年近い時間が経っている。
ところが、少なくとも日本ではIoTの世界が来たとはいえない状況だ。半導体工場など一部の先進的な工場ではセンサーによる監視が普及しているが、一般の工場、あるいは企業活動や我々の生活の中にインターネットにつながるセンサーが多数普及したとは言い難い。
普及が進んでいない理由は、ほぼ明らかで、大きく2つある(図1)。(1)何のためにそれをするのかという目的がなかった、あるいは後回しにした、(2)IoTを導入してもフィードバックや次のアクションの自動化を前提にしていない、だ。
(1)の無目的は、ビッグデータなどではむしろ推奨された。「とにかくセンサーをばらまいてデータを収集しておけば、それが後に宝の山になる」と言われたのである。しかし、これでは企業は本格的な予算を割けない。また、有用でないデータ、つまり雑音が大量に混じったデータは、サーバーの処理能力やストレージの記憶容量をすぐに超えてしまう。そこで、センサー側のAI(人工知能)などである程度データを間引いてからサーバーに送る「エッジコンピューティング」が提唱された。しかし、目的が明確でなければデータを効果的に絞り込むこともできない。
(2)のフィードバックの仕組みを前提にしていない点も、センサーによるデータの自動収集の意味を半減させてしまう。