全1753文字

豊田中央研究所は、交通信号機の制御の最適化を地域単位で実現するために量子アニーリング(QA)やシミュレーテッドアニーリング(SA)の利用を検証した。交差点が格子状に2500カ所にある街を想定してイジングモデルを適用すると、車の直進性が高いケースではQAのほうがよい結果が得られたという。

 交通信号機の点灯タイミングによって、道路の渋滞状況は大きく変わる。豊田中央研究所は、広域道路網の信号機1つひとつの点灯を制御して、理想の交通状態に近づける組合せ最適化問題を設定した。これまでの制御方式と異なるのは、道路網全体の信号機を一度に最適化するところである(図1)。

図1 交通信号機の点灯の制御を決め打ちや部分最適から全体最適へ
図1 交通信号機の点灯の制御を決め打ちや部分最適から全体最適へ
これまでの交通信号機の点灯の制御方式と、豊田中央研究所が開発中の全体最適制御方式の違いを示した。現在の交通信号機で最も一般的なのは、単純な時間周期方式である。近年はリアルタイムの交通量に適応的な、交差点ごとの最適制御方式が実用化し始めた。しかし、こうした部分最適をつなぎ合わせても全体最適にはならない。豊田中研は、広域の道路網に対して、D-Waveの量子アニーリングマシンなどを使った、多数の交差点の交通信号機を制御する全体最適の研究開発に取り組む。(図:日経クロステックが作成)
[画像のクリックで拡大表示]

東西南北の車の流れを均一に

 今街中に設置されているほとんどの信号機の点灯方式は時間周期方式だが、近年、新しい方式の実用化が始まった。それが部分最適方式である。交差点に設置したセンサーが交通量を測定し、それを信号機の点灯にフィードバックする。当該交差点付近の最適化が期待できる。ところが、この制御方式は周囲の信号機との連携がなく、道路網全体の最適化にはならない。そこで豊田中研では、各信号機同士のつながりを考慮した全体最適方式に乗り出した。

 同社が想定した道路網は次のようなものだ(図2)。東西方向と南北方向に伸びるL本の道が、等間隔で直角に交わっている。各交差点には「東西に通行可能」と「南北に通行可能」の2値のいずれかを取る信号機がある。道は片側1車線で、通行する車は各交差点で直進か左折か右折をする。

図2 東西南北に偏りがない交通状況を「最適」と定義
図2 東西南北に偏りがない交通状況を「最適」と定義
豊田中央研究所が開発した広域道路網における交通信号機の全体最適制御を実現するイジングモデルの定式化の概要を示した。この定式化では、「東西方向の道と南北方向の道における車の流れやすさが同じ」であることを最適な交通状態と定義して、両者の差を最小にする。今回のケースでは、車の流れやすさは車の台数のみを変数として扱う。目的関数と制約条件を適切な比重で足し合わせて全体の目的関数にする。(図:豊田中央研究所の論文1)を基に日経クロステックが作成)
[画像のクリックで拡大表示]

 同社はこうした道路網で、「東西方向の道と南北方向の道における車の流れやすさが同じ」であることを最適な交通状況と定義した。各交差点間の距離が等しいため、車の台数で各道の流れやすさを表せる。東西方角の道と、南北方向の道における車の流れやすさの差を道路網全体で計算し、それを最小化するようなイジングモデルを作成した。