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 昨今、欧米では電気自動車(EV)シフトへの急激な動きや声明が見て取れる。そうした欧米に“日本も遅れるな”という意見が散見される。しかし、忘れてはいけない。日本こそ、既に10年以上前から量産EVを販売している、いわゆる「EVの先達」の国であるのだ。多くの失敗や成功といった日本の過去を振り返れば、EV普及の進化のほどや課題、解決方法が明らかになるはずだ。日本のEVの10年を総括してこそ、見える未来がある。本連載では、日本EVの10年からクルマの未来を見据えていく。

10年先行した日本EVの進化とは

 欧米では、2020年ごろから、ようやく大手自動車メーカーが量産EVの販売をスタートした。しかし日本では、09年に三菱自動車が「i-MiEV」を、10年には日産自動車が「リーフ」を量産EVとして販売し始めている。このように日本では既に10年以上のEVの歴史があるのだ。

三菱自動車は2009年に電気自動車(EV)「i-MiEV」を発売した(出所:三菱自動車)
三菱自動車は2009年に電気自動車(EV)「i-MiEV」を発売した(出所:三菱自動車)
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日産自動車は2010年に「リーフ」を発売(出所:日産自動車)
日産自動車は2010年に「リーフ」を発売(出所:日産自動車)
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 では、この約10年の歴史で、日本のEVはどれだけ進化したのであろうか。その要素として注目したいのは電池に関連した数値だ。なぜなら、EV普及の鍵は電池にあるからだ。電池次第で、クルマの性能や価格が大きく変わる。中でも、重要なのは効率だ。効率が良いほど電池は、より小さく、軽く、そして安くなる。

 そこで、日欧米の主なEVにおける電池容量と航続距離、電力量消費率、価格を比較してみた。

EVスペック比較
車名電池容量航続距離電力量消費率価格(表記のないものは全て税込み)
トヨタ自動車 CPod(限定モデル)9.06kWh150km
(WLTCモード)
54Wh/km
(WLTCモード)
165万円~
三菱自動車 i-MiEV(2009年モデル)16kWh160km
(10・15モード)
125Wh/km
(10・15モード)
438万円(税別)
消費税10%換算:481万8000円
日産自動車 リーフ(2010年モデル)24kWh200km
(JC08モード)
124Wh/km
(JC08モード)
358万円(税別)
消費税10%換算:394万350円
日産自動車 リーフ(2021年モデル)40kWh400km
(JC08モード)
120Wh/km
(JC08モード)
332万6400円~
322km
(WLTCモード)
155Wh/km
(WLTCモード)
ホンダ Honda e(ホンダ イー)35.5kWh283km
(WLTCモード)
131Wh/km
(WLTCモード)
451万円~
マツダ MX-30 EV35.5kWh256km
(WLTCモード)
145Wh/km
(WLTCモード)
451万円~
ドイツVolkswagen(フォルクスワーゲン、VW) ID.3(ドイツ仕様)45kWh348km
(WLTPモード)
149~151Wh/km
(WLTPモード)
約3万2000ユーロ
日本円換算約410万円
欧州Stellantis(ステランティス) プジョー e-20850kWh403km
(JC08モード)
131Wh/km
(JC08モード)
396万1000円~
トヨタ自動車 レクサス UX300e54.4kWh367km
(WLTCモード)
140Wh/km
(WLTCモード)
580万円~
米Tesla(テスラ) モデル3未発表
(推定:55kWh)
448km
(WLTPモード)
未発表
(試算:123Wh/km)
444万円~
日産自動車 アリア66kWh450km
(WLTCモード)
未発表
(試算:146.6Wh/km)
660万円~
ドイツAudi(アウディ) e-tron 50 quattro71kWh335km
(WLTCモード)
222Wh/km
(WLTCモード)
933万円
ドイツDaimler(ダイムラー) Mercedes-Benz(メルセデス・ベンツ) EQC80kWh400km
(WLTCモード)
236Wh/km
(WLTCモード)
895万円~
車種はすべてエントリーグレード。未発表とある部分は、推測、もしくは試算した数値を入れてある。データは2021年8月26日時点のもの(出所:鈴木ケンイチ)

 電力量消費率は、いわゆる電費で、1km走行するのに必要な電力量を示す。この数字が小さいほど効率が良い。環境のためにEVシフトするからには、効率の良さが重要だ。

 また、航続距離や電力量消費率の試験方法には、さまざまなモードがある。基準が古い順に、10・15モード、JC08モード、WLTCモードとなり、新しくなるほど試験内容は厳しい。ちなみに、欧州のWLTPモードは、日本の方法にはない高速域の試験が追加されている。このため、日本の試験結果よりも数値が悪くなる。このことを考慮すると、10・15モード、JC08モード、WLTCモード、WLTPモードの順で試験が厳しくなっていくと考えればいいだろう。

 表中の車種は、すべてエントリーグレードとした。表中に未発表とある部分は、筆者が推測、もしくは試算した数値を入れてある。

1kWh当たりの電池コストを半減

 最初に、日本製EVの進化の度合いとして、1kWh当たりの電池コストをチェックしてみたい。比較するのは、日産の初代リーフと、第2世代に進化した現行リーフだ。