急激な電気自動車(EV)シフトの動きを前に、日本ができることは何か――。それは、過去を振り返ることではないだろうか。日本は世界に先駆け、2009年から本格的な量産EVを販売してきた。既に10年以上の経験を持っているのだ。過去を振り返ることで、これからの課題や解決方法が見えてくることだろう。
今回は、EV普及と切り離せないインフラの一つ、急速充電器の歴史を振り返りながら、未来の姿を見据えたい。充電インフラの規格競争は決着がつくのだろうか。日本の充電規格「CHAdeMO(チャデモ)」を展開するCHAdeMO協議会の吉田誠事務局長に話を聞いた。吉田氏は日産自動車にも籍があり、日産のEVや電池関連の仕事に携わっている人物だ。
EV慎重派のトヨタが初期から参加
「CHAdeMO協議会にはビジョンとミッションがある。ビジョンは、『子供たちの笑顔のためにゼロエミッションモビリティを実現する』というもの。ミッションは、そのために『安全で利便性の高い充電技術を普及する』というものだ。電動化技術の中でも、充電を担う技術を次世代に向けて普及させようというのが、協議会発足の精神だ」と吉田氏は説明する。
CHAdeMO協議会が設立されたのは、10年3月のことだ。09年に準備会を立ち上げ、話し合いを始めてからおよそ1年という期間を経て設立に至った。吉田氏はこう振り返る。「当時は、SUBARUと三菱自動車が、EVを出すか出さないかというタイミングだった。日産のEV『リーフ』もまだ出ていない。その中でクルマ側、電力側、充電器を作る電気機器側といった、『業種をまたいだコンソーシアムをつくろうよ』と動き出した」
設立時の幹事会社はトヨタ自動車、日産、三菱自動車、SUBARU(当時の社名は富士重工業)、東京電力の5社。EVに慎重であったトヨタも、初期から参加していたことは注目に値するだろう。競争領域と協調領域を踏まえたうえでのオールジャパンといった布陣だったのだ。
初代会長には東京電力の勝俣恒久氏が就任した。会員には、自動車メーカーをはじめ、充電器メーカー、充電サービス関連会社、行政など、海外企業19社を含む、158の会社と団体が名を連ねていた。
当然、この時点では世界を見渡しても、同じようなEV向けの充電規格は存在しなかった。まさに先駆的な存在だったのである。