電気自動車(EV)の普及には、いくつもの課題がある。その一つに「集合住宅に住む人の充電インフラ設置の難しさ」がある。分譲マンションや賃貸マンションに、新たにEV用の充電設備を設置することが難しいのだ。この問題をなおざりにして、果たしてEVの普及は本当に可能だろうか。
例えば、分譲マンションの駐車場に充電設備を設置しようとした場合、当然、同じマンションの住人たちの承認を得る必要がある。ところが、EVを利用していない住人からすれば面倒なだけで“うまみ”がない。そのためマンションの管理組合で話し合っても、EV用充電インフラ導入の了承がなかなか得られにくいという状況に陥りやすい。
賃貸マンションの場合も同様だ。EV用充電インフラは設置するだけでなく、その後の電気使用量に応じた料金を住人から集めなければならない。その手間もかかる。設備の維持管理費もばかにならない。加えて、EVが普及していない現状では、利用したい人も多くは見込めない。
面倒で費用もかかり、利用者も少ないEVのために、マンションのオーナーが、わざわざEV用充電設備を用意することは、まだまだレアなケースと言えるだろう。
もちろん、このような問題があることは、ずいぶん前から課題としていわれていた。それだけに、自動車メーカーも手をこまねいていたわけではない。
国内において積極的にEVを販売する日産自動車は、まさにその1社だ。同社は2010年11月「賃貸集合住宅の駐車場におけるEV充電設備に関する共同検討について」を発表。都市再生機構(UR)と共に横浜市のUR賃貸住宅にEV用充電設備を設置して、実地検証を行っている。日産は10年以上も前からこうした問題に取り組んでいるのだ。
ちなみに日産初のEVである「リーフ」の発売は2010年12月だ。つまり、リーフ発売当時から集合住宅への充電設備という課題は認識されていたことが分かる。
さらに日産は2017年8月、NEC、大京アステージと共に「分譲済みマンションにおけるEV充電器を設置する実証プロジェクト」もスタートさせている。
これは、分譲マンションへのEV用充電器設置の費用を実質ゼロ負担とするものだ。マンション管理組合対応などをフォローするほか、クラウド方式の個別課金システムを用意する。分譲マンションへのEV充電器を設置するためのハードルを、ほぼ解決できるプロジェクトとして期待されていたようだ。
その後、集合住宅向けのEV充電設備設置のサポートサービスは、他の企業からもいくつか登場した。これらは日産の試みと同様に、マンション管理組合への対応フォローから、課金システムの提供まで、手厚い内容となっていた。
ただし、先駆的な取り組みに当たる日産、NEC、大京アステージの3社共同プロジェクトは、スタートしたという発表があったものの、その後の報告がほとんど見当たらない。結果がどうなったのか気になるところだ。
民間企業だけでなく、行政もEVインフラ普及に対するサポートに力を注いでいる。例えば東京都は、EV普及に向けて、2018年から充電設備導入促進事業(集合住宅)を開始している。これは集合住宅などにEV充電器を設置するときに補助金を出すという内容で、東京都と国の補助をあわせれば、ユーザーの負担をゼロとすることも可能だ。
このように、自動車メーカーやマンション関連企業、行政、民間サービスなど、周りを見渡すと、集合住宅へのEV充電設備設置をサポートする体制は充実したものとなっている。
では、そうした周囲の努力の結果、集合住宅のEVインフラ問題は解決したのであろうか。その答えを考えるヒントとなりそうな、興味深い調査がある。それは次世代自動車振興センターが実施した「2019年度クリーンエネルギー自動車普及に関する調査」だ。