電気自動車(EV)への注目度が高まり、世界中の自動車メーカーが次々と新型EVを投入するようになってきた。そこで気になるのが、ユーザーが使い終わった後のEVの行方だ。特にEVで使用するリチウムイオン電池は従来の鉛電池と異なり扱いが難しく、使用後の活用が課題となる。
EVの普及を考えるうえでは、自動車のライフサイクル全体で二酸化炭素(CO2)排出量を評価するLCA(Life Cycle Assessment)の考え方が欠かせないだけに、自動車メーカーにとっては避けて通れないテーマだ。
だが、世界に目を向けてもリチウムイオン電池のリサイクルを大々的に取り組む事例はほとんど見当たらない。まさに先端を行くのは日本である。EVのリチウムイオン電池の再利用を目的として設立された「フォーアールエナジー(以下:4Rエナジー、横浜市)」はその一例だ。同社の足跡をたどりながらEV用電池のリサイクル問題を考えていこう。
4Rエナジーは、日産自動車と住友商事の合弁で、2010年9月に設立された企業だ。ポイントは、日産のEVである「リーフ」の発売が同年の12月であったこと。日産はリーフを発売すると同時に、その使い終わったEV用電池の行く末もしっかり考えていたことが分かる。
設立当初、4Rエナジーには主に「2つの役割があった」と、代表取締役社長の牧野英治氏は説明する。1つは、自動車で使い終わった電池を再利用することで電動車の残価を上げ、電動車の販売拡大に貢献すること。もう1つは、再生可能エネルギーの拡大だ。この役割は今でも変わらない。
「今まさに国が進めようとしている第6次エネルギー計画にもあるように、再生可能エネルギーをどんどん増やしていかなくてはならない。だが、再生可能エネルギーは不安定だ。そこで電池を使い安定的に供給できるようにする必要がある。そのためにも我々は再生利用した電池を手ごろな価格で販売し、再生エネルギーの拡大に貢献したいと思っている。再生可能エネルギーが拡大すれば、電気がクリーンになり、さらに電動車の価値が上がるだろう」(牧野氏)
カーボンニュートラルで第3第4の価値が浮上
そもそも、電池の再利用にはどのような価値があるのだろうか。
日産の出身でありリーフの開発プロジェクトにおいてEV関連ビジネスの創造に関わってきた牧野氏は、「EVの普及において電池再利用の価値は4点ある」と説明する。
1点目は、電池を再利用することで電動車の価値と残価を上げ、販売拡大に貢献すること。2点目は再生可能エネルギー拡大への貢献だ。そして、3点目は資源問題への対応。最後の4点目は電池製造時のCO2削減だという。
1点目と2点目は4Rエナジーが設立時に掲げた役割と同じで以前から注目されていた価値である。だが、3点目と4点目の価値についてはここ最近のカーボンニュートラルの流れにおいて、急に注目度が高まった。
例えば、第3の価値として挙げた資源問題への対応。EVの普及を考えたとき、電池で使用するリチウムやコバルト、ニッケルといったレアメタルは、どう考えても足りなくなる。そもそも、クルマ以外にも電池を使いたいという話が出てくるので、レアメタルの奪い合いが生じかねない。そこで、再生電池の利用を増やし新たに製造する電池の数を抑制できれば、レアメタルの使用量を抑えられるというわけだ。
第4の価値として挙げた電池製造時のCO2削減も、再生電池が担う役割は大きい。
欧州では「リチウムイオン電池を製造する際に、大量のCO2が排出される」といった論議が既に出始めている。特にEVなどに使われるリチウムイオン電池は、非常にナーバスな製品だ。製造時に異物が混入すると製品不良となり、最悪、発火する恐れがある。製造時には、人の発する汗などの水蒸気さえも嫌うのだ。そのためクリーンルームのような環境に製造機械を置き、自動で生産しなければならない。当然、製造時に大量の電力を使い、それに比例してCO2排出量が増えてしまう。
国際エネルギー機関(IEA)のスタディーによると、1kWhの電池単位当たりの製造時に100kgものCO2が排出される。例えば、62kWhの電池が搭載されたEVであれば、1台当たり6.2トンものCO2となる。新型コロナ禍の前の場合で、3.23人の人間が年間に排出するCO2に相当する量だ。それだけに、「電池を再利用すれば、新品の電池を製造しなくて済む。イコール、CO2削減になる」と牧野氏は指摘する。
製造時のCO2排出量が多く、しかも、価格が高い。そんなリチウムイオン電池を再利用できれば、確かに環境にも良いし、経済的にもメリットは大きい。ここまで先を読み、リユースを専門とする4Rエナジーを設立した日産は、“EVを普及させる”ことに本気であったといっても過言ではないだろう。
ビッグデータの活用が不可欠
急速なEVシフトで今後、欧米の自動車メーカーはEV普及のための電池再生事業に本腰を入れなくてはならないだろう。だが、その道のりは決して平たんなものではないはずだ。その課題はどこにあるのか。4Rエナジーが取り組んできたこれまでの道のりを振り返ることで探っていこう。