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 5年ほど前の2017年前後、自動車業界における最大の注目は、システムが運転を制御する自動運転だった。電気自動車(EV)の普及とほぼセットとなる話題として、連日のように自動運転関連のニュースが飛び交っていた。自動車メーカーからも威勢のよい見通しが次々に発表されていた。当時は「20年に開催される東京オリンピック・パラリンピック終了後には、街なかで自動運転のクルマを見ることができそうだ」という雰囲気さえ漂っていたほどだ。

 ところが、東京オリンピック・パラリンピックが終わった21年の時点では、自動運転のクルマの大々的な発表はなかった。新型コロナウイルス感染症の影響でオリンピック開催が1年延期されたにもかかわらずに、だ。さらに1年たった22年の現在に至っても、完全な自動運転のクルマを街で見かけることはない。むしろ、自動運転のクルマを販売するといった話題は激減したように感じるくらいだ。自動運転の熱は冷めてしまったのだろうか。

2021年の東京オリンピック・パラリンピックで運行された、トヨタ自動車の電気自動車「e-Palette(イーパレット)」。自動運転車における代表的なクルマの1つだ(写真:トヨタ自動車)
2021年の東京オリンピック・パラリンピックで運行された、トヨタ自動車の電気自動車「e-Palette(イーパレット)」。自動運転車における代表的なクルマの1つだ(写真:トヨタ自動車)
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 自動運転の話題が盛り上がってからの5年間を少し振り返ってみよう。

 自動運転を実現して大きな話題となったクルマといえば、21年3月にホンダが発売した「レジェンド」と、22年5月から販売を開始したドイツMercedes-Benz(メルセデス・ベンツ)「Sクラス」およびEVの「EQS」くらいだろう。これらのクルマは、自動運転のレベル3の機能を搭載し、注目された。レベル3の自動運転では、高速道路などの自動車専用道という特定の環境・条件下においてシステムが運転を制御する。その際、問題などが生じて車両側から運転の交代を要請された場合、運転者は運転を引き継がなければならない。完全な自動運転に一歩近づいたシステムである。

2021年3月、ホンダはセダン「レジェンド」の1モデルとして、自動運転レベル3を実現する「LEGEND Hybrid EX・Honda SENSING Elite」を加えた。限定100台のリース形式で販売した(写真:ホンダ)
2021年3月、ホンダはセダン「レジェンド」の1モデルとして、自動運転レベル3を実現する「LEGEND Hybrid EX・Honda SENSING Elite」を加えた。限定100台のリース形式で販売した(写真:ホンダ)
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 ただ、レジェンドの場合はリース販売であり、その台数は僅か100台。とても実用化されたとは言えない内容だった。SクラスやEQSは、ドイツ本国内でのオプション提供であり、日本にはまだ導入されていない。ましてや、他社からは市販車としてのレベル3のクルマは発売されていない。

 これらのことを考えると、レベル3機能を搭載したクルマが市民権を得たという状況ではないのだ。街なかで見ることのできる自動運転レベル3以上のクルマは、いまだに実証実験レベルを脱することができないのである。

 レベル3の自動運転すらまだ普及していない状況を踏まえると、自動運転の技術開発は足踏み状態に陥っているかのように見えてしまうだろう。しかし、そんな状況でも、絶望してはいけない。完全な自動運転そのものは登場していないが、その技術の一端は着々と実用化されているのだ。それは運転支援の領域だ。

 筆者が改めて自動運転技術の広がりを感じたのは、マツダのとあるクルマに試乗したのがきっかけだった。