日系メーカーを始め、欧米ブランドから数多くの電気自動車(EV)が発売されるようになった日本の自動車市場。EVという製品自体は、珍しいものではなくなりつつある。そんな中、EVに対する新しい提案が生まれた。それは「EVの音」だ。
EVはエンジンという内燃機を持たない分、室内の静粛性に優れる。しかし、そのEVにあえてパワーユニットに当たるモーターの音を加えるというのが、新しい提案なのだ。
量産車でいえば、ドイツMercedes-Benz(メルセデス・ベンツ)のEVである「EQS」や「EQE」がその一例だ。同車種には「サウンドエクスペリエンス」という機能が備わっている。これは、アクセルの操作に合わせて変化する音をスピーカーから流すというもの。運転行為に応じるドライビングサウンドだ。
日本のメーカーでは、マツダが代表格といえるだろう。同社はEV「MX-30 EV MODEL」で音作りに注力。パワーユニットの音を、あえて運転者に伝えることに取り組んだ。
ちなみに、日本では他にヤマハ発動機が「αlive AD」の名称でサウンドデバイスの技術を発表している。調律したEVの走行音などを車内で再生するというものもある。
音の情報を使い人の能力を生かす
EVにパワーユニットの音をわざわざ付与するのは、いったいどのような意味があるのだろうか。マツダのMX-30 EVにおいてサウンド開発に携わった担当者に話を聞いた。
マツダのきっかけは、ドイツ拠点からの提案だったと言う。「MX-30 EVの商品目標を協議している中で、ドイツ拠点のメンバーから『EVでもサウンドのフィードバックが必要だ。デモカーを造ったので乗ってくれ』という提案があった」と、マツダの車両開発本部NVH性能開発部の光永誠介氏は説明する。
光永氏は1993年から、NVH(Noise、Vibration、Harshness)性能の開発において、主に車内で耳にするエンジン音の開発を担ってきた人物だ。MX-30 EVの開発担当者でもある。
光永氏はこう続けた。「(ドイツ拠点の)彼らが言うには、『ドイツメーカーではかなりEVの開発が進んでいて、その中の1つの必要項目として、EVでのサウンドフィードバックを各社が検討している』ということだった」。そこで、開発の関係者がドイツに集まり、皆でデモカーに乗ってみることにしたと言う。その結果、「『確かにEVでもサウンドフィードバックは必要だ』という話になった」と光永氏は言う。