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 「営業利益は1500億円で、営業利益率は1.5%。純利益も600億円の見通し」─。2021年7月28日、日産自動車社長兼最高経営責任者(CEO)の内田誠氏(以下、内田社長)が、21年度(22年3月期)通期の業績見通しを発表した(図1)。いわゆる3期ぶりの「黒転(黒字転換)予想」である。

図1 日産自動車の社長兼CEOの内田誠氏(右)
図1 日産自動車の社長兼CEOの内田誠氏(右)
2021年度決算で黒字転換の予想を発表した。実現すれば3期ぶりの黒字となる。左は同社最高執行責任者(COO)のアシュワニ・グプタ氏。(写真:日産自動車)
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 同社は19年度に6712億円、20年度に4487億円と2年連続で巨額の赤字(純損失)に沈んだ。かねて内田社長は「3期連続の最終赤字(純損失)は何としても回避したい」と語ってきた。その目標通りに今、日産自動車の業績は回復の兆しを見せている。

 同社は車両の完成検査不正と、立て続けに起きた経営トップによる不祥事(後述)、業績悪化によって毀損した企業イメージを払拭すべく、20年7月には「新生日産」の意味を込めてブランドロゴマークを刷新(図2)。その象徴となるクルマとして、SUV(多目的スポーツ車)タイプの新型電気自動車(EV)「アリア」も発表した(図3)。21年6月4日に日本市場で予約販売を開始したところ、価格は660万円(税込み)からと高額であるにもかかわらず、10日間で約4000台の予約注文を獲得。新生日産を象徴するクルマとして幸先の良いスタートを切った。

図2 ブランドロゴマークの刷新
図2 ブランドロゴマークの刷新
傷付いた企業イメージを改善すべく、左に示す従来のブランドロゴマークを、右のデザインに刷新した。(出所:日経ものづくり)
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図3 新型EV「アリア」
図3 新型EV「アリア」
「新生日産」の象徴となるクルマ。日本市場には、容量が66kWhと91kWhを搭載する車両を投入する。660万円(税込み)からと高額だが、予約販売開始後の10日間で約4000台の注文を得た。半導体不足などの影響で発売が遅れているが、納車は2021年の冬を予定している。(出所:日経ものづくり)
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リストラ後に高利益率も長期では下落

 日産自動車の足元の業績悪化は、かつてフランスRenault(ルノー)から派遣されたカルロス・ゴーン氏が同社の最高執行責任者(COO)としてリストラを断行し始めた1999年度からたどるとよく分かる(図4)。98年10月にリストラ計画「日産リバイバルプラン」を発表した時点で6兆円未満だった日産自動車の売上高は、リーマン・ショックの影響で一時的に沈んだものの、2015年度に12兆円を超えるところまで、ざっと2倍に伸びた。

図4 日産自動車の業績の推移
図4 日産自動車の業績の推移
ゴーン氏がリストラを実施した1999年度から2021年度(予想)までの売上高と営業利益率を見た。リストラを成功させたが、成長戦略に失敗した同氏の功績と失策が見えてくる。リストラ以降、リーマン・ショックで一時的に落ち込んだものの、その後、売上高は15年度までは伸びている。ところが、営業利益率は03年度をピークに、中・長期的に下落基調にある。19年度と20年度はついに赤字に転落。同社は現在、再びリストラ(日産ネクスト)を断行中である。(出所:日経ものづくり)
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 ところが、営業利益率に注目すると売上高の伸びとは対照的な特徴が浮き彫りになる。同社の営業利益率はリストラ直後に急伸し、03年度には11.1%に達したものの、以降はリーマン・ショック時の急落を除いたとしても、基本的に右肩下がりの傾向が見られるのだ。16年以降のここ5年は売上高も営業利益も落ち込み、先の通り、19年度からは2年連続で赤字(営業損益および純損失)に転落している。

 つまり、ゴーン氏が経営トップの時代はリストラ効果で一時期は高い利益率を確保したものの、中・長期的には下落基調にあったことが分かる。同氏の実績を率直に総括すれば、リストラに成功して日産自動車の倒産を回避した一方で、十分な利益を生む成長軌道に導けなかった、ということになる。

「第2のリバイバルプラン」

 成長戦略の失敗とそれに続く足元の業績の悪化は、11年に打ち出した中期経営計画「日産パワー88」以降の拡大戦略に大きな原因がある*1。日産自動車は新興国市場を成長源と位置付けて生産能力を拡大させた。13年に復活させた小型車ブランド「ダットサン」はその象徴だった。ところが、思ったようには売れずに余剰生産能力を抱えた。その上、新興国市場向けに経営リソースを集中させすぎた結果、米国や日本といった先進国市場向けの新型車開発が滞った。モデルチェンジされずに車齢の長くなった製品が増え、競合製品に販売面で負ける。そこに新型コロナウイルス禍が重なり、日産自動車は赤字に転落したわけだ。

*1 日産パワー88
2011~16年の6年間の中期経営計画。世界販売シェアを8%に、営業利益率を8%に高めることを狙ったが、両方とも未達に終わった。

 この事態を受けて同社が20年5月末に打ち出したのが、23年度までの4カ年にわたる事業構造改革計画「日産ネクスト」だ(図5)。その中身は「第2のリバイバルプラン」、すなわちリストラ計画である。18年度で年間720万台だった生産能力を年間540万台まで減らし、車種の数を23年度までに69から55に削減する。過度な拡大路線を反省し、「利益を確保した着実な成長を果たす」と内田社長は言う。このリストラ計画により、同社長は23年度に世界販売シェアを6%、営業利益率を5.0%まで高める目標を掲げている。

図5 事業構造改革計画「日産ネクスト」
図5 事業構造改革計画「日産ネクスト」
中身はリストラ計画で、「第2のリバイバルプラン」と言える。最適化と選択と集中の2本柱でリストラを実行する。(日産自動車の資料を基に日経ものづくりが作成)
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 果たして、日産自動車は復活するのか。