BANDAI SPIRITS(東京・港)は2020年12月、「ガンプラ」(「ガンダムシリーズ」のプラモデル)をはじめとしたプラモデルを生産する工場「バンダイホビーセンター」(静岡市)の敷地内に新設した「バンダイホビーセンター新館(以下、新館)」を稼働させた(図1)。増えつつあるガンプラの需要に対応するため、生産能力を1.4倍に引き上げた。コンパクトな建屋の中に射出成形機6台を並べ、成形機周りのスペースを生かせるように小回りの利く自動搬送車(AGV)を導入。さらに成形機の稼働管理をコンピューターシステム化し、稼働率を従来よりも引き上げた。
好調なプラモデル生産
BANDAI SPIRITSは、バンダイナムコホールディングスのグループの中で、主に大人向けのホビーや玩具関連の事業(ハイターゲット事業)を担う。バンダイナムコホールディングスは21年3月期の決算で「特に第4四半期はガンプラが想定以上に好調に推移した」と説明している。第4四半期は、まさに新館が稼働して生産能力が高まった時期に当たる。
ガンプラ生産能力の増強の背景には、プラモデルメーカー全体の活況がある。1980年代のピーク時には及ばないものの、国内のプラモデル生産額はリーマン・ショック直後の2010年度を底に増加し続けている(図2)。その中でもBANDAI SPIRITSは好調で、06年度の年間出荷数が722万個だったのに対し、19年度には3126万個と4.3倍に増加していた。
そこに新型コロナウイルス感染症による「巣ごもり需要」も追い風になっているようだ。ただ、BANDAI SPIRITSホビーディビジョン クリエイション部 デピュティゼネラルマネージャーの松橋幸男氏は「コロナ禍が100%かというと、そうではないと思っている」と語る。「国内だけでいえば、久々にガンプラを作ってみようと思った人がいたのは事実だが、海外で直営店『THE GUNDAM BASE』を中国・上海に開設したり、ガンプラ作りの体験会を細かく実施したりして需要を掘り起こして成果が出始めたと考えている」(同氏)
現在ではガンプラの年間販売額の5割を海外分が占める。好調な需要は「コロナ後にも引き続く傾向ととらえている」(同氏)。だからこそ自社での生産能力増強に踏み切ったのだ。
狭いスペースに射出成形機を6台
新館を建設した場所は、これまでのバンダイホビーセンターの建屋(新館の建設に伴い「本館」と呼ぶようになった)の前庭に当たる、それほど広いとはいえないスペース。本館の延べ床面積が8767m2(3階建て)なのに比べて、新館は1488m2(平屋)と6分の1ほどしかない。ちょうどオリンピックサイズのプールの幅を少し広げたくらいのスペースに、射出成形機を6台並べた(図3)。この成形機を作業者1~2人が動かす。
倉庫からの射出成形機へのプラスチック材料の供給と、成形品の輸送を担うのがAGVだ。材料は毎日稼働前に、作業者が所要量を用意して倉庫内のパレットの上に載せておく。成形機への補給が必要になったタイミングで作業者がAGVに指示を出すと、パレットごと材料を成形機のそばへ運んでくる。AGVの呼び出しには、ハンディーターミナルを使う(図4)。
このAGVは、本館とは大きく異なったタイプのものを採用した。本館の搬送車は無人フォークリフトのような形で、名前もAGF(自動搬送フォークリフト)と称していたが、新館のAGVは平たい形で、天板全体に荷を載せられる(図5)。その場で旋回できるため、狭くカーブに余裕がない走行路でも運用できる。つまり、新館に成形機をなるべく高密度で設置する目的で、その分狭くなる走行路に対応できるよう、形式を変えたAGVにした。走行路は床面に埋め込んだ地上子の磁気で誘導する方式で、これは本館と同じにした。