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 半導体実装の開発・生産を受託するベンチャー、コネクテックジャパン(新潟県妙高市)が事業拡大を進めている。同社の武器は、半導体チップを低温で実装する技術「MONSTER PAC」。これまでと全く異なる実装法によって通常260℃ほどとされる実装温度が80℃で済む。工程数は従来の34工程からわずか3工程に削減した。しかも実装設備は机に載るほど小型。いわゆる「デスクトップファクトリー」を実現できるのだ。

新潟県妙高市に拠点を置くコネクテックジャパン
新潟県妙高市に拠点を置くコネクテックジャパン
(出所:日経クロステック)
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1個の受注でも利益が出る体制を

 MONSTER PACの実用化自体は数年前だが、熱に弱い基板材料やセンサーをゆがめずに接合できるため、IoT(Internet of Things)を加速させる技術として近年ますます期待が高まっている。MONSTER PACを使ったデスクトップファクトリーの台数は、2016年の1台目を皮切りに19年には3、4台目を導入。20年には5台目が稼働し始めた*1

*1 5台のうち4台は本社工場にあり、1台は外販した。

 デスクトップファクトリーの強みは、高温に弱い部材も実装できるのに加え、多品種変量生産に素早く対応できる点にある。既存の実装設備に比べて安価なため、品種ごとに複数台を用意してそれぞれで別品種を造れば、品種切り替えの手間がかからないためだ。

 仮に特定の製品の需要が急拡大してもその製品を実装する設備を増やせば、増産への即応も可能だ。それ故、多様な形態のIoTデバイスの試作や量産に特に向いている。同社代表取締役の平田勝則氏は「1個の受注でも利益が出る体制を目指している」と語る。

導電ペーストを印刷し特殊な樹脂で封入

 現在、小型半導体の実装は、ワイヤを使わない「フリップチップボンディング」という方法が広く使われている。一般的なフリップチップボンディングは、チップにメッキ処理を施して金属突起(バンプ)を設け、チップの電極とパッケージ基板上の電極を対向させた上で、約260℃の熱と高荷重でバンプを溶かしてチップと基板とはんだ接合する。この熱と圧力が従来工法のネックだった。高温・高圧に耐えられない材料も多いからだ。

 MONSTER PACは、チップの電極と基板の電極を対向させる点は従来のフリップチップボンディングと同じだが、はんだを使わない。高温ではんだを溶かす必要がないので、実装温度を80℃~170℃に下げられる。従来は接合できなかった、耐熱性の低いMEMSセンサーやPET(ポリエチレンテレフタレート)製のフレキシブル基板を接合できるようになる。

 具体的には、大きく3工程から成る。[1]凹版印刷技術を用いて銀などを含む導電ペーストを基板に載せる。この導電ペーストが基板とチップを接合するバンプとなる。[2]接着剤として、エポキシ樹脂などから成る熱硬化性の非導電ペースト(NCP)を基板とバンプの上に塗布する。[3]最後にチップをかぶせて接合する。ヒーターで十秒~数十秒間、80℃~170℃の熱を加えると、NCPがいったん液状化したのちに硬化する。その後、炉に数時間置いてNCPを完全に固める。

MONSTER PACによる実装工程
MONSTER PACによる実装工程
バンプの印刷、NCPの塗布、フリップチップ接合の3工程から成る。(出所:コネクテックジャパン)
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 肝となるのは、NCPと導電ペーストに使う材料だ。NCPはある温度帯で粘度が下がり液状化し、さらに温度が上がると硬化する性質を持つ。もし、粘度が下がらなければ、導電性があるバンプの上に非導電性のNCPがかぶさったまま硬化してしまい、基板とチップが導通しない。いったん液状化することによって、バンプとチップの間のNCPが排出され両者が接合する仕組みだ。さらにNCPは、熱硬化すると収縮しチップと基板が強固に接合して電極の接触を維持する役割を果たす。

 NCPと相性のよい導電ペーストも必要となる。同社の下石坂望最高技術責任者(CTO)は「約2年かけて、材料の温度と粘度の関係性を調べ、NCPと導電ペーストに使う材料を選定した」という。