ヤマハ発動機はさまざまな工場で、自社製品を活用して開発した自動搬送車(AGV)を導入して工場内物流を効率化している。例えば浜北工場で建屋間を走る大型のAGVは、ゴルフカーに自動運転技術を組み合わせて開発(図1)。本社磐田工場の鋳造工程に導入した小型のAGVは、動力に電動車椅子用のユニットを利用している。
自社製品を活用するのは、導入コストを抑える手段の1つ。同社はスマート工場実現の「4つのキーテクノロジー」として「自動搬送」「自動作業」「自動検査」「状態監視+トレーサビリティー」を重視している。いずれも、自社製品を含めて社内外から広く技術を集め、導入現場の課題に合わせて、効果に見合ったコストで実現するよう工夫を凝らしている。
ゴルフカーに自動運転技術を適用
ヤマハ発動機は、例えば「2輪車のホイールを内製するなど、多くの部品を自ら造っている」(ヤマハ発動機生産技術本部設備技術部長の茨木康充氏)のが特徴(図2)。社内に多彩な生産職場を抱え、それぞれの職場に合った課題解決方法を考えていかなければならない*1。
その中でも共通の着眼点として定めたのが前述の4つのキーテクノロジー。それぞれ、製品の価値を直接生まない付帯作業を対象としている。その付帯作業の典型が搬送であり、自動搬送の代表例が浜北工場のAGVだ。
同工場は従来、建屋間の部品搬送に有人運転の小型車両を使っていた。搬送にかかる人件費を節約するため、運転者は1~2直のシフト勤務。しかし生産現場は24時間の3直であるため、深夜作業分が仮置きスペースに積み上がり、工程間在庫になっていた。そこを無人化して、ワークを少量ずつ高頻度で運べないかと考えた。
しかし、通常のAGVは平たんな工場の床のみを想定しているため、使えない。ワークを積んだ後、建屋の出入り口の段差を乗り越えて外へ出て、アスファルトやコンクリート、あるいは土の上を走り、目的地の建屋に入らなければならない。そこで目を付けたのが自社のゴルフカーの応用だった。
運転経路はLiDAR(レーザースキャナー)で周囲を測定して決める方式を採用。部品納入に来た協力会社の有人車両と鉢合わせしたら、といった実運用上の課題を洗い出し、社外への提供が可能なところまで技術レベルを向上させた*2。