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 AGCが化学プラントのスマート化を急ピッチで進めている。同社はスマート化を3つの段階に分類する。まずは運転や設備に関する情報を可視化する「見える化」。次に収集したデータを解析し、故障などの原因を解明する「わかる化」。最後は人工知能(AI)を活用して品質を予測するなど、生産の仕組みを新たにする「変わる化」だ。

 同社担当者は「工場のデータを解析する基盤は整ってきている」と自信を見せる。2022年には現実世界を仮想空間上で再現する「デジタルツイン」に向けた取り組みも成果が出始める予定という。

他社に先駆けて化学プラントにローカル4G

 AGCは過去数年間で、様々なDX(デジタルトランスフォーメーション)の策を打ち出してきた。例えばその1つが化学品を扱う千葉工場に、他社に先駆けて導入した専用の無線通信網。第4世代移動通信システム(4G)を利用したもので21年2月に稼働を開始した(図12)。スマートファクトリーの実現に欠かせない工場の様々なデータを送受信する環境を整えた。「見える化」への第一歩だ。

図1 AGCの千葉工場
図1 AGCの千葉工場
(出所:AGC)
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図2 千葉工場に設置したローカル4Gネットワークの基地局
図2 千葉工場に設置したローカル4Gネットワークの基地局
(出所:AGC)
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 「自営等BWA」(広帯域移動無線アクセス)の免許を取得して企業が独自の4G無線通信網(ローカル4G、プライベートLTEとも呼ぶ)を設置、利用できるようになったのは19年12月末以降。「km単位の広範囲をカバーする独自の無線通信網を整備した化学プラントはまだ他にないだろう」(同社担当者)と胸を張る。

* 総務省が省令を改正したことによるもの。

 66万m2という広大な千葉工場の敷地の中で、重要度の高い場所からセンサーを取り付けて設備の振動や温度などのデータを集め始めた。既に効果は表れている。例えば、工場排水の管理に役立てた。工場から出る排水は周辺の環境に与える影響が大きく、水質などを厳格に管理している。ただ、工場の至る所で発生する水を集約した排水に異常があった場合、その原因をすぐに特定するのが難しかった。

 そこで、排水が通過する複数地点にpHセンサーを設置。各所のデータを、ローカル4G通信網を通じて制御室からリアルタイムに確認できるようにした。このデータを見ることで排水に異常をもたらす場所を細かく特定でき、解決までの時間を大幅に短縮できた。従来のように、異常がありそうな現場まで走って様子を確認する手間もなくなった。

 現在はまだセンサーの数が少ないが、将来的には千葉工場だけでも数百~数千個のセンサーを設置する予定だ。「有線と違って手軽にセンサーを増やせる点が利点」(同社担当者)と話す。技術者が長年の経験に基づいて判断していた異音などもローカル4Gを使って自動でデータを取得・蓄積し、暗黙知に頼らず検知できるように変えていく。自営網は25年をめどに5Gにも対応する予定だ。