全2235文字
PR

 2021年9月1日に発足したデジタル庁には、実は完全に決まっていないことがある。その1つが発足時点で5人が就任した、各分野の「CxO(最高責任者)」における役割と権限だ。行政機関を運営しながら、その組織体制を議論と試行錯誤で柔軟に変更・決定していくという「アジャイル・ガバナンス」(平井卓也デジタル相)は機能するのか。

「仕事を進めながら役割と権限を決めていく」

 デジタル庁におけるCxOは特異な役職といえる。原則として全員が「兼業前提」の非常勤職で、行政機関の中での明確な権限や職務範囲が規定されてない。CxOと称しながら、民間企業において経営サイドから各事業分野を推進し、その取り組みを全社に横串で通す「最高責任者」とは異なる存在に見える。

 デジタル庁におけるCxOについて、平井大臣は「まずはCxOを中心に仕事を進めてもらい、役割や必要となる権限は後から決めていければよい。民間企業の(CxOの)ようなお手本があるわけではない」と2021年9月7日の会見で語った。その議論は、デジタル庁が2021年9月3日に立ち上げた会議体「デジタル庁戦略方針会議」で始まったばかり。会議にはCxOの5人や民間人も参加し、民間と行政の「違い」をどうすり合わせるかやCxOの役割と権限について、活発な議論があったという。つまり役割と権限が固まり、整理されていくのはこれからだ。

デジタル庁のCxO就任者の例。左からCAに就いた東京大学大学院の江崎浩教授、CISOに就いた警察庁出身の坂明氏、CPOに就いたラクスルの水島壮太執行役員
デジタル庁のCxO就任者の例。左からCAに就いた東京大学大学院の江崎浩教授、CISOに就いた警察庁出身の坂明氏、CPOに就いたラクスルの水島壮太執行役員
(出所:左から江崎浩氏、日経クロステック、ラクスル)
[画像のクリックで拡大表示]

 デジタル庁のCxOはデジタル監に並ぶ目玉人事であり、各分野の第一人者がそろったのは確かだ。平井大臣が特に重要と位置付けるのが情報システムのアーキテクチャーを設計するアーキテクトのトップである「CA(Chief Architect:チーフアーキテクト)」だ。インターネット研究の第一人者、東京大学大学院情報理工学系研究科の江崎浩教授が就任した。ITやネットワークのインフラからその上で動作する行政システムの基本構造までの設計を一手に担う。

 インターネットの専門家に行政システム全体の設計を任せるのは珍しいといえる。江崎CAは、動画サイトに投稿された平井大臣との対談で「インターネットが成功した遺伝子をデジタル庁で開花させたい」と抱負を語った。

 情報セキュリティーを担当するCISO(Chief Information Security Officer、最高情報セキュリティー責任者)には、警察庁出身で東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会のCISOなどを歴任する坂明氏が就任した。さまざまな組織でセキュリティー分野の責任者を務めてきた経験を評価した。

 民間企業からはCTO(Chief Technology Officer:最高技術責任者)にグリーの藤本真樹取締役CTOが、CPO(Chief Product Officer:最高製品責任者)にラクスルの水島壮太執行役員CPOが、CDO(Chief Design Officer:最高デザイン責任者)には三菱UFJフィナンシャル・グループ子会社のJapan Digital Design(JDD)の浅沼尚CXO(Chief Experience Officer:最高体験責任者)が就任した。

 3人はいずれも各分野で実績を残し、職歴や経験も十分といえる。例えば藤本CTOはプログラミング言語PHPの分野で「PHPの神」とエンジニアの間で称されている。ラクスルは水島CPOのデジタル庁就任を「産業構造を変革する当社の理念に合致しており、会社として応援している」とし、デジタル庁との兼業を応援する姿勢だ。