2021年9月1日、デジタル庁が発足した。民間人が務める事務方トップであるデジタル監には、発足前に「最終調整」と報じられた米マサチューセッツ工科大(MIT)メディアラボ元所長でデジタルガレージ共同創業者・取締役の伊藤穣一氏ではなく、一橋大名誉教授の石倉洋子氏が就任した。平井卓也デジタル相は2021年9月10日、日経クロステックの単独取材に応じ、デジタル庁の人事や組織、予算、権限、未来などについて熱弁を振るった。今回は全文掲載の前編である。
デジタル監に石倉氏が就任しました。ご本人も2021年9月1日の会見で「デジタルの専門家ではない」と言っていましたが、意外な人選でした。
デジタルに詳しい人とはどんな人なのでしょうか。石倉さん自身が「私はデジタルの専門家ではない」と言っていますが、それは「私は村井純(慶応義塾大学教授)ではない、伊藤穣一ではない」と言っているのではないかと思います。
彼女はWordPressをマスターして自分でWebサイトをつくりました。記事を自動投稿するためにPythonのコードを埋め込もうとPythonの勉強もしています。そういう石倉さんだからこそ、エンジニアの魂を十分理解できると思います。
技術に関してはCxO(最高責任者)などの詳しい人が周りを固めます。結果論的な話にはなるけれど、最適な人選だったなとつくづく思っています。
石倉氏とは昔から知り合いだったのでしょうか。
大学が同じで、憧れの先輩でした。彼女は「大学卒業後にフリーターをしていた」とよく言っています。でも同時通訳をしていたことをフリーターだったと言っているにすぎません。
どんな経緯で石倉氏の名前が挙がったのでしょうか。
石倉さんはもともとデジタル庁のアドバイザー的な立場でした。デジタル庁をつくるに当たって、どんな組織にしたらいいのか、この1年間、色々な人から助言をいただいたのです。
日本のデジタル化は世界的にも遅れていますから、グローバルな視点で日本の状況を見られる人が不可欠だと考えていました。(改革の方向性を議論する有識者会議である)「デジタル社会構想会議」に入ってもらった伊藤(穣一)さんもそうだし、石倉さんもそうだし、そのほかにも(助言をもらった人は)何人かいました。
石倉さんが(会見で)「バウンダリー(境界)を越える」と言っていたように、デジタル化によって世界がつながります。だからグローバルに通用しないデジタル化はあり得ません。チーフアーキテクト(CA)に就任した江崎(浩・東京大学大学院教授)さんにしても、村井さんにしても、伊藤さんにしても、「インターネットが世の中を変えた」ということを分かっている人たちです。
日本のデジタル化を進めるうえで海外から学ぶ点は非常に多い。私自身、各国の(デジタル化の)担当大臣や責任者と意見交換をしています。特に、同じ考えを持った組織である英国のGDS(ガバメント・デジタル・サービス)や米国のUSDS(米国デジタル・サービス)とのコラボレーションは非常に重要だと思っています。
デジタル化が進んでいるエストニアにしても問題意識は我々とほぼ一緒です。縦割り組織や官僚イズムをどうやって打破するか、民間人材をいかにうまく使うか、スタートアップにどうやって仕事を発注するか、どううまく調達していくかなどです。
伊藤穣一氏は「デジタル庁にとってはありがたい」
デジタル監は伊藤氏で最終調整という報道が出ましたが、性犯罪者で2019年に獄中死したジェフリー・エプスタイン氏からの資金提供を巡ってMITメディアラボ所長を辞任した経緯が問題視され、不適格ではないかと論じる報道が相次ぎ、断念したと言われています。