2021年9月1日、デジタル庁が発足した。スタートアップのような迅速な意思決定の下、国として行政システムを最適化し、「誰一人取り残さない」デジタル社会の実現を目指す。平井卓也デジタル相は2021年9月10日、日経クロステックの単独取材に応じ、デジタル庁の人事や組織、予算、権限、未来などについて熱弁を振るった。今回は全文掲載の後編である。
デジタル庁の組織づくりについてうかがいます。デジタル庁のビジョンとして「ガバメント・アズ・ア・スタートアップ」を掲げるなか、スタートアップのように俊敏な意思決定をできる組織とするために工夫した点は何ですか。
「ガバメント・アズ・ア・サービス」と「ガバメント・アズ・ア・スタートアップ」。この2つがデジタル庁のビジョンです。
官民共同のフラットなチームをつくって、プロジェクトベースで機動的に仕事を進めます。意思決定のプロセスも合理化しようと思っています。
Web会議のシステムを整えて、私やデジタル監、CxO(最高責任者)などの幹部がどこにいても議論に参加できるようにしました。デジタル監には「意思決定のできない会議は開かない」という強い思いがあり、会議で常に何らかの結論を出すことを意識しています。(米Microsoftの)「Teams」などのデジタルツールを活用しています。
今までの役所とは違う意思決定プロセス
平井大臣やデジタル監がWeb会議に入ることで意思決定は早くなりますか。
早くなるかどうかはまだ分からないですが、(触れてきた)組織文化が全く異なる方々が一緒に集まって会議をすると、(霞が関における)今までの会議とは全然違う様相になりますね。文化が異なる人たちの集まりを、どうやってうまく機能する組織に変えるかは、私と石倉(洋子デジタル監)さんと赤石(浩一デジタル審議官)さんの課題です。3人で常に話し合いながら、官と民がうまくコラボ(レーション)できるようにしていきたい。
昔のCIO補佐官とデジタル庁のCxOは立場が違います。(民間人材が政策の)意思決定プロセスに参加するのは初めてだと思います。我々にとって非常に大きなチャレンジです。私が民間人のデジタル監にこだわったのは、今までの役所とは違う意思決定のプロセスを組織に埋め込みたいという思いがあったからです。
優れた民間人材が活躍するために、デジタル庁の人材の質と入札の透明性をどう両立させますか。
政府が自ら発注した東京オリンピック・パラリンピック向けの健康管理アプリに対して、外部の目から見た調査報告を2021年8月20日に出しました。自分たちにとって必ずしも都合のいい結果にはならないと分かったうえで(弁護士チームに)お願いしたのです。法律に触れなければ何をやってもいいということではないと、改めて強く感じました。
その5日後の8月25日には「デジタル庁における入札制限等の在り方に関する検討会」の報告書を出しました(編集部注:調達仕様書を作成した職員やその管理者の兼業先などを入札制限の対象とし、原則として当該調達案件を落札できない仕組みを構築するとした)。
この報告書と、オリパラアプリの検証報告書を受け止めて、(デジタル庁に)コンプライアンス委員会を設置しました。その下に監察部門と調達審査部門を整備していこうと考えています。
ものすごく厳しそうなルールをつくったと思われるかもしれませんが、民間の皆さんが非常勤で、かつ責任ある立場で働くというのは大きな挑戦です。民間の皆さんに堂々と仕事をしてもらうには、細かいところまでルールをつくり込む必要あります。私も含めて全員、誓約書にサインをしています。
「国として全体最適の視点はゼロだった」
2022年度の概算要求で、各省庁の行政システム投資(整備・運用費)のうち一般会計分をデジタル庁に一旦集約する「一括計上」制度を本格的に始動しました。今後は年金システムや特許庁システムなど特別会計分のシステムもデジタル庁で扱う方針ですが、法律改正などのめどはつけていますか。
法律の改正案は次の通常国会に出す予定です。既定路線ではありますが、一方で今のデジタル庁のリソースでそこまでできるのかという懸念もあります。
特に特別会計分は大きなシステムが多いですよね。しかもレガシーシステムも多数ある。システムが大きい分、ステークホルダー(利害関係者)もたくさんいるため、法律改正と合わせて組織強化を図ります。