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 前回までは紙文書を扱う業務の電子化、毎日のように繰り返すパソコン作業の「自動化」、必要な情報を効率よく探して利用できるようにする「セルフサービス化」といった生産性向上策を紹介した。

 こうした取り組みとともに忘れてはならないのが、テレワーク環境の整備だ。テレワークの動向に詳しいサイボウズ チームワーク総研のなかむらアサミ シニアコンサルタントは「都心部でテレワークに取り組んでいる企業やIT業界では、社員の在宅勤務の環境を整えているところは多い。しかし、テレワークと出社勤務を半々で実施しているようなハイブリッドな働き方を進めている企業などでは、社員の在宅勤務環境が整っていないケースが多い」と指摘する。

 「パソコンにWeb会議用のカメラが備わっていない」「自宅の無線LANを使って在宅勤務をしている」「パソコンのスペックが十分とはいえない」などの課題が出てきているという。

テレワーカーの4割前後が在宅勤務環境で課題を感じ続けている

 テレワークに関する調査でも同様の結果が得られている。日本生産性本部が2020年5月以降、四半期ごとに発表している「働く人の意識に関する調査」の中で、実施率などテレワークに関する調査を続けている。

 2021年7月に発表した第6回の調査結果によると、テレワークの課題として「部屋、机、椅子、照明など物理的環境の整備」「Wi-Fiなど、通信環境の整備」を挙げるテレワーカーの割合はそれぞれ41.5%、36.6%だった。この4割前後という調査結果の傾向は、2020年5月に発表した第1回の調査から一貫している。在宅勤務の環境整備は、テレワーカーにとって依然、大きな課題だといえる。

 こうした社員の在宅勤務環境の不備をそのままにしていると、在宅勤務時の生産性低下を招きかねない。さらに「在宅勤務をはじめとするテレワークで何か不便を感じてしまうと、会社で仕事をしたほうがよいと社員が思ってしまい、在宅勤務から出社勤務に戻ってしまう。社員の安心や安全を確保するためにも環境面の課題解決は重要だ」とサイボウズのなかむらシニアコンサルタントは指摘する。

 感染力の強い新型コロナウイルスのデルタ株への対策や、社員の健康維持のためにも、在宅勤務を中心としたテレワークの継続が欠かせない。テレワーク可能な業務がある企業は、社員の在宅勤務環境が十分とはいえないケースがある場合、生産性を高めるためにも環境整備に取り組む必要がある。

助成金制度を活用、環境整備は社員の声を踏まえて着実に

 環境整備に当たってはそのための資金がまず問題になる。サイボウズのなかむらシニアコンサルタントは「社員の在宅勤務環境が十分に整っていない企業は、自治体による助成金制度などが多いので、活用するとよい」とアドバイスする。

 一方、推進面については「テレワーク環境の整備は一気に進めることが難しい。テレワークをする社員に向けて、何について困っているかを尋ねるアンケートを実施して、その結果を踏まえて、できることから取り組んでいくとよい」(なかむらシニアコンサルタント)と話す。

 費用は会社負担で進めるのがよいという。なかむらシニアコンサルタントが特に勧めるのが、スマートフォンの会社支給だ。「社員の自宅の無線LANなどを利用してもよいが、不具合が出ることもある。スマートフォンを支給しておくと、テザリングによる通信もできるので業務中の安心感が高まる」(なかむらシニアコンサルタント)

テレワーク先進企業も当初は「自宅で仕事は無理」との声が

 今では多くの社員が在宅勤務を続けているテレワーク先進企業も2020年春、新型コロナウイルス感染防止対策で在宅勤務を始める際、社員の在宅勤務環境についての課題に直面していた。イーブックイニシアティブジャパンの辻靖執行役員最高執行責任者(COO)は「在宅勤務を大規模に始めたときは社員から『自宅で仕事をするのは無理です』といった声が上がっていた」と明かす。

 その理由を詳しく聞くと「通信環境が不十分だ」「仕事をするための椅子がない」といった声が出たという。そこでイーブックイニシアティブジャパンでは月額9000円の「リモートワーク手当」を支給し、社員が自宅に光回線を引いたり通信費に充てたりできるようにした。

 さらにヘッドセットやマイク、カメラといったWeb会議で必要になる備品の購入費を会社が負担するようにしたり、希望する社員にはパソコンのディスプレーやオフィスチェアなどの社内備品を、自宅に配送してレンタルしたりしている。

 社員はこうした備品などを活用して在宅勤務環境をつくっている。「好きなものを置くなど自分好みの環境にカスタマイズできる。集中して仕事を進められる環境もつくりやすい」(辻執行役員COO)。2020年の途中からは、緊急事態宣言が発令されていない場合は、コワーキングスペースを利用してもよいことにした。利用費用も月額3万円まで補助するようにしている。